41 / 106

41.

そのことに、「どうした」「どうされました」と二人に言われ、恥ずかしくて、「いえ、なんでもありません⋯⋯」と小さくなっていた。 「何もないならいいが」 思わず立ち上がっていた御月堂は座り直し、ホテルマンは「ではごゆっくりと」と言い残し去って行った。 その姿を目で追うことはなく、目線を下げ、手持ち無沙汰だと腹部を触っていた。 「お前は何を頼む」 顔を上げると、決まった様子の御月堂が開いたままのメニュー表をこちらに渡してきた。 「え、えと⋯⋯。私が頼んでもよろしいんでしょうか」 「いい。これは、こないだの詫びを兼ねてだ」 「お詫び⋯⋯? って⋯⋯あ」 自分が触ったことで、姫宮が泣いたと思われてしまって、散歩がてらここに連れてきたということか。 「あの時の、私が泣いてしまったこと⋯⋯ですよね。あれは、御月堂様のせいではありません。⋯⋯すごく個人的なことで。ですから、お詫びとしては受け取れません」 額にも怪我をさせてしまったのだから、詫びるのであれば姫宮であろう。 そう思い、「私が奢りますから」と言おうとした時。 「だったら、暑かっただろう。好きな物を頼め」 下がっていた目線を上げると、じっと見つめる御月堂の姿があった。 背後の日差しを受けて、大袈裟にいうと、後光を差し、微笑を浮かべているように見えた。 鼓動が高鳴った気がした。 「⋯⋯お言葉に甘えて」 メニュー表を手に取り、目を通す。 ざっと値段を見てみるが、平均的に八百円が多く、珈琲類は千円以上が当たり前に並んでいた。 普段、このような場所にも行かない姫宮にとっては、内心驚きの連続で、御月堂の奢りという形とはいえ、少々頼みにくい。しかし、妊娠の身であるため、頼める物は限りがあった。 「こちらでお願いします」 「分かった」 ちょうど通りかかったウェイトレスに注文すると、承ったウェイトレスはメニュー表を持ち、去って行った。

ともだちにシェアしよう!