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そのことに、「どうした」「どうされました」と二人に言われ、恥ずかしくて、「いえ、なんでもありません⋯⋯」と小さくなっていた。
「何もないならいいが」
思わず立ち上がっていた御月堂は座り直し、ホテルマンは「ではごゆっくりと」と言い残し去って行った。
その姿を目で追うことはなく、目線を下げ、手持ち無沙汰だと腹部を触っていた。
「お前は何を頼む」
顔を上げると、決まった様子の御月堂が開いたままのメニュー表をこちらに渡してきた。
「え、えと⋯⋯。私が頼んでもよろしいんでしょうか」
「いい。これは、こないだの詫びを兼ねてだ」
「お詫び⋯⋯? って⋯⋯あ」
自分が触ったことで、姫宮が泣いたと思われてしまって、散歩がてらここに連れてきたということか。
「あの時の、私が泣いてしまったこと⋯⋯ですよね。あれは、御月堂様のせいではありません。⋯⋯すごく個人的なことで。ですから、お詫びとしては受け取れません」
額にも怪我をさせてしまったのだから、詫びるのであれば姫宮であろう。
そう思い、「私が奢りますから」と言おうとした時。
「だったら、暑かっただろう。好きな物を頼め」
下がっていた目線を上げると、じっと見つめる御月堂の姿があった。
背後の日差しを受けて、大袈裟にいうと、後光を差し、微笑を浮かべているように見えた。
鼓動が高鳴った気がした。
「⋯⋯お言葉に甘えて」
メニュー表を手に取り、目を通す。
ざっと値段を見てみるが、平均的に八百円が多く、珈琲類は千円以上が当たり前に並んでいた。
普段、このような場所にも行かない姫宮にとっては、内心驚きの連続で、御月堂の奢りという形とはいえ、少々頼みにくい。しかし、妊娠の身であるため、頼める物は限りがあった。
「こちらでお願いします」
「分かった」
ちょうど通りかかったウェイトレスに注文すると、承ったウェイトレスはメニュー表を持ち、去って行った。
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