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第4話
そうして俺は十五歳となり……盗みをはじめて二年が経過した頃、俺は転機となったあの日に見たものと同じ、黒い馬車を見つけた。
降りてきた青年は、全然姿が変わらっていなかった。
ジェフリー様、だと、すぐに分かった。
以前は大人に見えたけれど、今は俺よりも少し年上くらいだと考える。
――十八歳くらいだろうか?
子供には見えないが、二年前に抱いた印象よりは、ずっと身近に思えた。
「おや?」
「……」
俺の方は二次性徴が始まったばかりだったが、背が少し伸びていたから、気づかれない自信があったし、たった一回会っただけなのだからと、素通りしようとした。一度助けてもらったから、カモにはしないと決めながら。だが、横を通り抜けようとした俺の左手首を、ギュッとジェフリー様が握った。焦って俺は息を呑む。
「久しぶりだね。会いたかったんだ、孤児院を何軒も探したんだけど、結局見つけられなくてね」
「……」
「今度こそ、名前を教えて? 僕のことは、覚えてる?」
視線を向けると、ジェフリー様が柔らかな笑顔を浮かべていた。相変わらず綺麗な顔立ちをしているなと思いつつ、俺は軽く首を振った。
「人違いじゃ? 俺には、お貴族様の知り合いなんていないんだ」
「そう? 僕は一度食べたものの味は決して忘れない自信があるけれど、まぁ、いいよ。じゃあ、君は? 君の名前は教えてもらえるかな?」
「……エドガー」
「いい名前だね。少し一緒に、話をしよう」
「急いでいるんで。俺、暇じゃないんだ」
「じゃあ、手早く済ませるよ。もう少し味見がしたいだけだからね」
「? っ……」
笑み交じりのジェフリー様の声を聞いた直後、俺の意識が曖昧になった。
まるで夢を見ているような感覚になり、俺は立っていられなくなって、気づくとジェフリー様の腕の中にいた。ジェフリー様が長い指先で、俺の右耳の後ろをなぞったのが分かった。すると俺の背筋を、熱が駆け抜けた。
「ぁ……」
「少し大人びて、より僕好みに成長したね。将来が楽しみだよ、エドガー」
ジェフリー様はそう言うと、深々と俺の唇を貪った。舌を絡めとられ、甘く噛まれる。俺はいつの間にかキスに夢中になり、口に与えられる快楽を必死になって追いかけていた。何が起きているのか、よく分からなかった。
「うん。困ったな、実に美味だ。しかし、このままこの辺りに置いておいたのでは、誰に散らされるかも分からない。それも惜しいな、連れていこうかな。うん、それが良いね」
「……」
「ねぇ、エドガー? 君、家族はいる?」
「ぁ……っ、ぁ……」
ジェフリー様が俺の服を開けながら、そう言った。それから左手で、俺の陰茎を握りこむ。目を潤ませた俺は、なぜなのか素直に答えていた。
「妹がいる」
「そう。じゃあ、妹さんと一緒に僕のところへ来ない?」
「お前のところ……? っ、ぁァ……」
「ナイトメア伯爵家。きちんと、君と妹さんの生活を保障するよ、エドガーさえ、いい子にしてくれたらね」
「あ、あ、出る……ぁ、ア、ああ!」
ジェフリー様の手の動きが激しくなり、俺はそのまま初めて、他者の手で果てさせられた。その後もジェフリー様の腕の中でぐったりしていると、優しく頭を撫でられた。もう一方の手では、俺の放った白液を指に絡め、そちらをぺろりとジェフリー様が舐めていた。その瞳が、どこか獰猛に見えた。俺はそれを見たのを最後に、眠るように意識を落としてしまったようだった。
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