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第8話
――目を覚ますと、まだ体が熱かった。
「もう嫌だ、止めてくれ、あああああ」
俺は泣きながら喘ぐ事しか出来ない。
ジェフリー様が俺に挿入する事は無い。だが俺の体は、もっと奥深くに刺激が欲しいと訴えている。俺はすすり泣きながら腰を揺らし、哀願する。
「ジェフリー様、あ、ああっ、イきたい、イきた――」
「いいよ? 好きにイっていいんだよ?」
「これじゃ、イけな――……やぁ!」
俺の後孔にも快楽を教え込んだくせに、浅い場所を一本の指で抜き差しするだけで、前立腺すら刺激せず、その上今日は前にも触れてくれないジェフリー様を、俺は快楽で蕩けてしまった顔で見る。
「どうして欲しい?」
「もっと、もっと欲しい」
「うん?」
「挿れて、頼むから、ああ、あア」
「そうだね。エドガーは、僕があげた玩具をとっても気に入ってしまったみたいだものな。奥深くを貫かれないとイけなくなっちゃったんだもんね?」
「っ、ふ、ぁ……ァ……っッ」
羞恥に駆られたが、その通りだ。全身が熱い。
「でもね、今日のメニューには、玩具は入ってないんだよ」
「っひ、く……あ、あ、ジェフリー様、ジェフリー様、ぁ! あ、あ、あ」
やっとジェフリー様が、指先をそろえて、俺の前立腺を刺激した。その瞬間に、俺は放った。だが、快楽が止まってくれない。
「今日は、随分と寂しそうな顔をして、馬車の窓から外を見ていたね」
「あ……あ……っ、ぅ……」
「僕達が出会った通りを走っている時も」
「……ァ、っ」
「ずるいよねぇ、エドガーは。僕は一目見た時から、君の事が好きになって、愛おしくなって、だから食べたくなって、探しまわって、大切に保護して、きちんと育ててきたっていうのに。僕を好きになってくれないんだから」
ジェフリー様が呆れたように苦笑した。俺はとっくにジェフリー様が好きだ。好きだと思ったから、抱かれに来たわけである。今では俺よりも若く見えるジェフリー様、変わらないジェフリー様、きっと人間では無いのだろうが、それでも良い。俺は好きだ。
だが、それを伝えて、執事と主人という関係性が変わってしまうのも怖いし、自分がただの食糧だったと思い知らされるのも怖いし、仮にそうではなく、本当にジェフリー様もまた、今しがた口にしたように俺を好きであったとしても、それもまた恐ろしい。
恋人同士になったならば、きっと愛が消えたら捨てられる、好きでは無く嫌いになられたら、それで終わりだ。だから俺は、決して伝えないと決めている、自分の気持ちを。
「エドガー、本当は僕の事が好きなんじゃないの?」
「好きじゃな――あ、ああああ!」
グリっと前立腺を指で嬲られ、俺の体がビクンと跳ねた。
「僕をきちんと好きだって、言えるようになるまでは、エドガーを抱いてあげないからね。それまでは僕の機嫌が良い場合は玩具、悪い場合は、ずっと指だ。これは分かる?」
「分からない、あ、あ、ヤだ、嫌だ、俺は、だ、だから、違う――」
「本当に予想以上に物分かりが悪い、ダメな執事だな。いい子に、って何度も教えてると思うけどね?」
「待って、あ、待ってくれ、あ、あ、あ、体熱い――んぅ」
「そりゃあそうでしょ? 僕は夢魔だ。今日もギリギリまで焦らしてあげるよ。その後いっぱいいっぱい食べさせてもらおうかな。あー、早く挿れたいなぁ、きっと美味だ」
この夜も、俺は散々泣かされた。
翌朝、俺はいつもとは異なり、ジェフリー様の寝室で目を覚ました。体が気怠い。だが、新聞にアイロンをかけなければと考える。そんな俺を横から抱き寄せているジェフリー様は、何処か不機嫌そうに見えた。緩慢に俺はそちらを見た。すると唇にチュッと音を立ててキスをされた。最初、何が起こったのか分からず、次に状況に気づいて、俺は真っ赤になって唇に力を込めた。
「エドガー」
「……」
「言って。きちんと、ね。僕をどう思ってるのかな?」
「……」
「――というよりね、その真っ赤な顔を見たら、言われなくても、とっくに君の気持ちは分かってるんだけどね」
それを聞いて、俺は思わず目を丸くした。頬に熱が集まっていく。
「それでもやっぱりねぇ、君の口からきちんと聞きたいんだよ」
俺は沈黙した。そんな俺を抱き寄せると、俺の額にジェフリー様が口づける。
「夜は煩いくらいに喘ぐのに、肝心な事は沈黙するんだもんなぁ」
俺はギュッと目を閉じた。恥ずかしくて聞いていられない。
「僕もそろそろ限界なんだけどな?」
「……新聞を取りに――」
「だーめ。今日はお休みにするように。代わりに別のものを貰うから、もう、我慢が出来ない」
「え?」
俺が目を開けると、ジェフリー様が俺にのしかかってきた。そしてまだドロドロに蕩けていた香油まみれの俺の後孔に――熱く硬いものを挿入した。俺は思わず息を詰める。
「あああああ」
「大好きだよ、愛してる。エドガー、君をいっぱい食べさせてもらうよ。いいよね?」
「あ、あ、っ……あ! あ、あ……待っ、息が出来な――」
「ちゃんと自分の気持ちを言ってごらん? そうしたら、少しだけ待ってあげるから」
「や、ぁ、アあ! 気持ち良っ、う、うあ」
「そう言う感想じゃなく。僕の事をどう思ってるのか聞いてるんだけどな? ダメ執事はまた沈黙するのかな? 沈黙、出来るかな? 夢魔の本気を相手にして」
激しくガンガン打ち付けられて、俺の頭が真っ白に染まる。ブツンと俺の理性は途切れ、気づくと俺は口走っていた。
「大好きだ。俺も好き、愛してる」
「うん、いい子。じゃあ、良いよね? 僕達は両想いなんだから――今日は一日エドガーの体を貪らせてもらおうかな。色っぽすぎて、我慢するのが本当に大変だったよ。はぁ、本当に可愛いなぁ、ナイトメア伯爵家の執事は。僕だけの恋人は」
この日、俺は宣言通り、完全に抱き潰された。
初めて挿入されたジェフリー様の巨大な陰茎に、これまで知らなかった最奥を何度も突き上げられ、俺は初めてきちんと、他者と体を重ねた。
そして、SEXとは、体も思考もドロドロになってしまう気持ちが良いものだと教え込まれた。ジェフリー様に突き上げられる度、俺の胸には幸福感がこみあげてきて大変だった。
一度口に出してしまうとタガが外れ、その日俺は、何度も愛の言葉を告げた。
ジェフリー様はそんな俺を優しい眼で見ると、同じように言葉を返してくれた。
「好きだよ、エドガー」
俺の胸は、満たされた。
そして一日仕事を休み、翌日なんとか顔を出した俺を見ると、家令や侍女長、何より妹のマリアが複雑そうな顔をした。その後溜息をついてから妹が言った。
「やっと恋人同士になったのね。お兄ちゃんって、本当に分かってないんだから。そういうところが、ダメ執事」
俺が仕事を休んだ理由など誰も聞かず、周囲はデレデレな顔で、嬉しそうに俺に抱きついているジェフリー様をお祝いしていた。俺は真っ赤になって俯きつつ、沈黙を通した。
以後、毎夜俺は、ジェフリー様に食べられた。
なお、現在までに嫌われている様子はなく、毎日俺は執事の仕事も並行しながら――こんな日々が大切だなと思っている。
―― 了 ――
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