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最終話

  僕が仕えるリシェス・デュドール様はとても真っ直ぐな方です。  幼い頃から気高く、何よりも自分というものをしっかりもっている。見目麗しさに近付いてきた不埒な輩にも噛み付いていくような気丈さ、そして僕のような人間にも手を差し伸べて下さる。  ――そして、リシェス様にはαの運命の番がいる。   教室の外、青空の下。中庭でアンフェール様と一緒に並んでいるリシェス様を見つけ、頬を緩めた。  リシェス様が幸せそうに微笑んでいるのを見ているだけでこちらまで胸が満たされる。  美男同士の運命の番だなんて周りからも羨望の的だ。我が主としても誇らしい、誰よりも気高く美しいリシェス様とそれに釣り合う美丈夫のアンフェール様。  ――チクリと胸の奥が痛んだが、それもすぐに溶けるように消えた。 「本当にそう思ってる?」  頭の中で響く声が聞こえてきた。が、それもすぐに消えた。  窓から視線を逸し、教室の外へと出ていこうとしたとき、目の前に見覚えのない男――違う、友人のユーノが立っていた。  どうしたんだ、飯にでも行くか。  そう声をかけようとした瞬間、腹に何か硬いものがあたった。 「……お前は懲りないな」  なにが、と聞き返すよりも先に、胃から、腹から、何かが込み上げてくる方が早かった。行き交う生徒たち。息苦しさに耐えられず咳き込んだ瞬間口の中から溢れ出す赤い血に自分で驚いた。口からだけではない、腹に滲む血。堪らずその場に跪く僕に、周りの連中は誰一人関心を示さない。まるで僕もユーノもそこにいないみたいにただ通り過ぎていき、全ての音が耳鳴りとともに遠くなっていく。 「っ、ぉ、まえ、なんだ……」 「……」  ユーノは何も言わず、そのままその場を立ち去っていくのだ。まるで用済みだと言わんばかりに何も言わずに。  治癒も出来ない。傷は塞がるどころか広がっていき、腹から溢れ出していく血液は水溜りのように広がっていく。暗くなる視界の中、力が抜け、落ちる。  赤かった窓の外は黒く染まり、そして白く染まっていく。気付けば誰もいなくなった教室の中、僕だけはそこにいた。  死ぬこともできないまま、一人置いていかれた世界の中、僕はこの感覚に一種のデジャヴを覚えていた。  ああ、そうだ、これは確か――あのときの。 《「アルバネード戦記」で予期しないエラーが発生したため終了しました。》

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