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第1話
1.隣の家の悪ガキ
隣の家に住む幼馴染に狙われている。
いや、というか、もうほとんと手中に落ちている。
ひとつ年下の成瀬千早 は今日も俺の部屋にやって来た。
ちなみに俺は倖田数生 という。数生というのは数学科出身でIT企業に勤める父親が付けた名前だが、残念ながら俺はバリバリの文系だ。
で、もちろん俺だっていつもほいほい千早を招き入れるわけではない。オンラインゲームがしたいときやサブスクで観たいドラマがあるとき、試験勉強しなければならないときなんかはさすがに断っている。すると千早も特に文句は言わず「分かった、じゃまたね」とあっさり返してくる。
別に昔からその関係性だけだったら変わっていない。あいつが小学校に入る直前に隣家に越して来てから、ほぼ毎日顔を合わせてきた。お互い一人っ子だった俺たちは部屋でゲームをしたり公園で近所の奴らと遊んだり、夏休みには一緒に区民プールに行ったりと実の兄弟同然の付き合いだった。
が、そんな実の弟みたいに思っていた奴に俺は今、身体をまさぐられている。こんなの少し前までは夢にも思わなかったことだ。
「あっ、千早っ、それ、やめろ…」
括れた敏感な部分をしつこく擦られ、我知らず腰がビクつく。
俺の身体は千早の脚の間にがっちり挟まれている。千早は背中にぴったりと身体を密着させていて、うなじを甘噛みしつつ俺のペニスを両手で握り、扱いている。さっきからずっと上下しているその手は先走りで濡れ、ぬるぬると滑りがよくなって来ている。
千早はペニスだけをボクサーパンツから引き抜いて触っていて、それが逆にいやらしい。どこでこんなこと覚えたんだよ、こいつは。
さんざん弄られて硬くなったペニスはもうそろそろ限界を迎えそうなのだけど、あと少しだけ何かが足りない。どこか他のところも触ってほしい。胸のあたりがむずむずする。
じれったさに少し身じろぎすると、テレパシーでも通じたのか千早がするりとロンTの中に片手を入れ、腹筋を撫で上げてから乳首を親指と人差し指で摘み、いじり始めた。「ん、あっ…!」声が出て、慌てて口を噤む。真下にあるリビングでは母親が呑気にバラエティ番組でも観てるはずだ。
「数兄…。気持ちいい…?」
耳元で千早が囁く。元々火照っていた顔が更にかあっと熱くなる。反応を見れば分かるだろうに、いつもわざと聞いてくるのだ。
「んっ…」
返事の代わりに声が出る。気持ちいい、そこそこ、もっと触ってくれなんて言えるか。でも、きっと言わなくてもバレてる。
陰茎を上下していた手が今度は柔らかい亀頭の先をくにくにと指先だけで弄る。気持ちいい、けど、寸前まで迫っている射精をもったいぶって押し留められたような感じがする。
「ん、あっ、千早っ…」
「…ん?そろそろいきそう?」
「ん、だからっ…」
「もっと、しごいてほしい?」
こくこく、と頷くと「ふ」と薄っすら笑うような声が背後でして、千早の手が再び竿を強く擦り始める。
「あっ、つよ…っ…ちょ…」
「いっていいよ、数兄」
ばか、なんでお前にそんなことを許可されなきゃいけないんだ、と脳裏で一瞬思うのだけど、その考えとは裏腹に、ガクガクっと腰に制御できない動きが起こって、腹の中で快感か爆ぜる。びゅう、と溜まりに溜まっていたものが放たれたが、それは千早の手が受け止めている。
毎度のことながらこの瞬間は慣れない、恥ずかしい、なのに身体から出てくる生温かい液体はどくどくと溢れ出てなかなか止まってくれない。
最後まで出たのを確認すると、千早は手で受け止めたものをティッシュを引き抜いて拭い始める。
その後、濡れた俺のものも丁寧な手つきで拭いてくれる。いつもこの時間は放心してしまっていて、なんでだか千早のされるがままになってしまう。
「数兄、かわいい…」
性器をさわさわと拭いつつ、俺のうなじを唾液を擦り付けるかのように舌で舐めてきて、微かにその野生的な匂いがしてくる。
あー、もう、首の裏、びちょびちょだ。なのになんで不快じゃないんだろう。それどころか、いったばかりのに舌が動くたびにゾワゾワとまた快感による鳥肌が立ち始め、性器もぴくぴくと反応する。
拭き終えて、色の付いたビニール袋にそれをしっかり包んで捨てると、上がっていた呼吸を整えつつ呆けて座っている俺の元へ千早は戻って来て、身を屈めてキスをしてきた。ねっとりと絡みついてくる舌の動きにまた頭の中はショートしてしまって、知らない間にベッドに倒される。
千早が覆い被さって来て、深いキスを続ける。喉まで届きそうなくらい舌がぐいぐいと入ってきて上顎の凹凸を舐められ、息が詰まる。
「数兄…好きだよ…」
身体の重みをずっしりと感じつつ、こいつって本当に俺のこと好きなんだな、と思う。
キスしながら、またも胸の突起を指先で転がされて肌がざわついた。
ダメだ、動けない。どうしていつもされるがままになってしまうんだろう。
「なあ、倖田ってどこの大学に行くか決めた?」
昼休み、前の席で弁当を食っていた同じテニス部の坂口が振り返って聞いてきた。
「んー。まあな。MEACHのどっかに入れればいいかなあ」
「あっそ、気軽に言ってくれんじゃん。まあ、倖田は成績も悪くねえもんな」
「そうだな、推薦で行ければいいんだけどな。さすがに無理かな?」
「試合でもそこそこ実績上げてたし、MEACHのどこでもよければ推薦でも行けんじゃね?」
「去年、都内ベスト16くらいでも大丈夫か…?」
「十分じゃねーの」
坂口がテキトーな口調で答える。まあ担任に一応聞いてみるか。推薦の可能性があっても念のため勉強はしとかないとなあ。
もう高3の4月も終わる頃だ。桜のピンク色に視界が覆われ、花粉が飛びまくるボヤっとした季節に紛れて俺の頭も身体もグダグダとしていたが、そろそろ真剣に進路を考えなければいけない。
「倖田ってそーいや、去年同じクラスの子と付き合ってたじゃん。なんつったっけ。色白で可愛い子だったよな?」
「あー、緑川ね…」
「なんで別れたの?仲良さそうに見えたのに。よく試合も観に来てくれてたよな?」
「んあ…えーと、価値観の、不一致?」
「なに価値観て」
「…深くは聞かないでくれ」
そうなんだよ、うまく行ってたはずなんだけどな、ユリとは。なんでこうなったかね。
だから、あいつがいけないんだよ、あいつが。
千早の奴、俺のことが昔から好きだったらしくて、それに気づかずに呑気に奴を部屋に入れた俺は、まあつまり、端的に言えば手篭めにされた。エロい手つきであそこを扱かれて気持ちよくなってしまった。それだけなら単に性欲に負けただけだ、と思えたはずなのだけど。
ほぼほぼ浮気してしまった形になった俺は、ユリとこの先どうやって前みたいに普通に付き合ってけばいいかよく分からなくなってしまって、何の落ち度もない彼女に別れを告げた。
ユリからしてみればまさに寝耳に水、だったよな。だってつい先日まで平和にデートを重ねて、順調に関係を築いていたのだから。
『他に、好きな人ができたとか?』と言われて『そんな訳じゃ…』と否定しようとしたのに、そこで言葉に詰まった。
『そうなんだ?』
俺の表情を見てなにか察したのか、ユリは寂しそうに笑った。
『ごめん…』
俺は謝るしかなかった。だって、説明できなかったし。隣の家の、弟みたいに思ってた奴にキスされたらなんかヘンな気持ちになってしまった、なんて。
「あーあ…」と俺がため息を吐くと、
「まあ、そのうちまた彼女くらいできんだろ?元気出せよ」
と、何も知らない坂口に励まされた。
「おう…」
彼女ねえ。俺ってまた女の子と付き合えるのかな?千早と抜き差しならないって感じの関係になっちゃってんだけど。
だいたい千早が悪いんだ。こっちは高3だぞ。ただでさえ大学のことや将来のこと、テニス部だって関東の大会が終わるまでは練習も忙しいし、考えなきゃいけないことは山ほどある。なんで、幼馴染の男なんかに心を乱されなきゃいけないんだ?
何かを真剣に悩むことなんて、俺にはこれまであまりなかった。小学校からやってるテニスはトップレベルじゃないにしろそこそこ勝てたし、恋愛だって勝手に女の子が告白して来てくれることが多くて彼女を作るのに苦労したことなんてない。振られてもそれはそれ。いつも二、三日すれば忘れて次の子のことを考え始めた。
昼メシをさっさと済ませて机に突っ伏して寝ようとしたのだが、モヤモヤと先週末のことが脳内に蘇った。またやっちまった。千早の奴、来るたびに俺をもて遊びやがって。なぜか抗えない俺も悪いんだけど……
そんなことを思いつついつの間にかウトウトしていると、
「数兄、寝てんの?」
と聞き覚えのある声が上から降って来て、がば、と飛び起きた。
「千早…。どした…」
こいつは学校内で今一番会いたくない奴ナンバーワンなのだが。なんでうちの教室に?
「あ、起きてた。なあ、次の時間、俺のクラス体育なんだけど、着るもん持ってくんの忘れてさあ。数兄、体操服とハーフパンツ貸してよ」
「…イヤだ」
「え、なんで」
「俺のじゃデカいんじゃね?学年で色も違うし、友達に借りろよ」
「みんな持ってなかったんだよ。いーじゃん、体操服なかったらTシャツでもいいし。数兄、部活用にいつもTシャツ何枚か持ってんじゃん」
「…チッ」
「なんだよ、ケチケチしてさ〜」
不満げな顔に無言でしかめ面を返す。ケチケチしてるわけじゃないけど、なんとなくイヤなだけだ。服を共有するなんて、こいつの香りが移っちまいそうで。
しぶしぶロッカーからTシャツとハーフパンツを持ってきて渡すと「サンキュー。洗って返すわ」と言って、手を振って教室から出て行った。
「ったくよぉ…」
ひとりごちて椅子に座ると、
「ね、倖田くん、さっきの彼って、二年の子だよね?名前なんていうんだっけ。仲良いの?」
と、隣の席の本田という女子が声を掛けてきた。髪色も派手でギャルっぽいタイプだ。
「あー、うん。…隣の家のヤツでさ、まあ弟みたいなもんかな…。成瀬千早っていうんだ」
「そうなんだ、成瀬くんか。彼、かっこいいよねー、ってよく友達と噂してたんだ。倖田のお隣さんか〜。ね、成瀬くんて、彼女いるの?」
「いねえ」
「え、いないんだ?なんだ、絶対いると思ってた。ね、今度さ、どっかでお茶とか一緒にしたいんだけど!倖田も交えて男女2、3人ずつとかで集まらない?」
「いや、無理だと思う」
「えー、なんで〜?」
「あいつ…」
女に興味ないから、と言いそうになって慌てて「好きなやつがいるみたいだから」と続けた。
「好きな人ぉ?付き合ってるわけじゃないんだ?」
「ま、そうだけど…」
「じゃ、いいじゃん。お茶かごはんするだけだから!ね、誘ってみてよ」
「いーけど…期待すんなよ」
「なによー、倖田だって女の子と知り合いになれるんだからいいでしょ。ね、ちゃんと言っといてよ!」
「わーった、わーった」
俺は手を振って、会話を終わらせるためにまた机に突っ伏した。
「もー、ほんとに言っといてね?!」
本田がなおも言ってくるが、寝たふりを決め込む。
千早の奴って昔からこういうギャル系の女子にモテるんだよなあ。中学に入って何がきっかけなのか知らないが、パーマをかけたりピアスの穴を何個も開けたりし始めてから更にモテだした。
ま、ギャルなんて俺の好みとは違うから羨ましいわけじゃないけど。というか、千早は俺のことが好きなんだから女子からモテても無駄なんだよな。ルックスがいいのに、もったいない奴だ。
そこまで考えてあらためて不思議に思う。俺ってば、千早が自分のことを好きだっていうのをすんなり受け入れてるよなあ。
だって仕方ないんだ。あいつ、俺を見る目がヤバいんだもん。普段はシレっと冷静にしてやがるけどさ。
そうなんだ、あいつはヤバい。二人きりになるとすぐ襲いかかってくるし、これからはあまり簡単に部屋に入れないようにしなくては。
翌々日、部活から帰って飯を食い、風呂に入ったらもう眠くなってしまった俺がベッドでうたた寝していると、ピンポン、と階下から音が聞こえた気がした。どうせ宅配便だろ、と思ってそのままゴロゴロしているとトントン、と誰かが階段を上がってくる音がして、突然ガチャリ、と部屋のドアが開いた。
「数兄?」
「え?うわあっ!!」
部屋に入れないようにしようと思っていたそばからもう本人が入り込んで来ていてびっくりする。
「な、なんだよ、千早。いつもはLIMOしてから来るじゃん…」
「あー。体操服返そうと思って来たら、おばさんが上がってけば?って言ってくれたから」
「言ってくれたからじゃねーよ、勝手に入ってくんなよ」
「…なんだよ、昔は俺、アポなしで遊びに来てただろ?」
「子供だったからな。今は…」
「今は?…俺が来ると、襲われるから怖いんだろ」
「なっ…。そんなことねーよ!」
図星を指されて俺は反論する。
「そんなことあるじゃん。今だって顔、真っ赤だよ?」
「…うっせえ」
くそ。またペースに乗せられている。
「ね、数兄」
「なんだよ」
「借りたTシャツさ、数兄の匂い、すごくしたよ」
「なっ…!」
「着替えたらフワっと数兄の匂いがしてきてさあ。俺、思わずムラっとしちゃった」
「てめえ、千早…」
千早は俺の反応に面白そうに目を細めている。いつのまにこいつ、こんなにタチが悪くなったんだか。
「数兄だってさ…本当は、期待してるんでしょ?」
そう言うと、ベッドに身体を起こした俺に近寄って来る。
「きょ、今日はやんないぞ…」
「数兄はいつも何もやってないじゃん、俺が勝手にやってるだけで」
「減らず口を叩くなっ!」
「もー、うるさいな」
「ちょ、だからっ、んっ…」
ベッドの上に乗ってにじり寄って来た千早はあっというまに俺の首に手を回して口を塞いで来た。舌の動きの合間に「こら、やめっ…」と言いかけるが、強く吸いつかれて言葉にならない。
くちゃ、くちゃ、と舌を絡められて「んんっ…」と言いながら、腕を押し返そうとするが麻痺したように力は入らない。こいつの方が俺よりずっと筋肉なんか付いてなくて華奢なはずなのにどうして力が強いんだよ。
「ふ、数兄…ぜんぜん抵抗できてないよ」
「るせえ…」
「数兄のTシャツだけでムラムラしてたけど…やっぱり本物の方がいいね。ずっといい匂いだ…」
「このっ、変態野郎っ…!!」
「その変態に触られて興奮してんのは誰だよ?」
そう言って笑うと、千早の手が下の方に伸びた。
「ああっ、も、やめろって…」
「やめていいの…?」
「んあっ…!!」
千早の手がスウェットの上から睾丸のあたりを揉んでくる。
「んんっ…」
さわさわとそこだけを揉まれて、びくびくと竿の方が反応する。また舌が口の中に差し込まれて柔らかい口内を舐め回される。
「はぁっ、…数兄は、快楽に弱すぎるんじゃない…?」
「んっ、だから…っ、お前の触り方がそんなんだから、ううっ…」
ダメだ。睾丸を掴まれただけで、もういってしまいそうだ。けど、他のところも触れてほしくて身体がむず痒い。
「もっとしてほしいんだろ、数兄…」
「だからっ、お前がそんな風に触るからいけないんだって…!」
「俺さ、ずっと我慢してたことがあるから、してあげる…」
そう言うと、一気にスウェットと下着が引き下ろされた。
「あっ、待て…!!」
「いいから…」
よくねえよ、と思っているうちに、そこが熱いものに覆われた。
「うぁっ…」
春先だから部屋の中にはエアコンもかかってなくて剥き出しの下半身が少し肌寒い。けど、そこだけ蕩けるように熱い粘膜に包み込まれて、じわじわと溶け出してしまいそうだ。
じゅう、と音を立てて、半分くらい口の中に入ったペニスが吸われる。「んんっ…!」
俺の反応を上目遣いで見てきた千早は、一旦口をそこから離した。けど、根元は掴んだままだ。
「俺、ずっとこうしたかった…。我慢してたんだ。できて、嬉しい」
「くっ…ばっか野郎…そんなんが嬉しい奴なんているか…!」
「数兄が、ずっと好きだったからだよ…」
裏筋に沿って舌が這い、たまらず「ああっ…」と声が出る。「なんでお前…そんなの…」上手いんだよ、と言おうとして口を噤む。
「同じ男だから分かるよ、そりゃ」
また気持ちが通じたように千早が返してくる。
「くそ…」
今度は亀頭だけ口の中に入れて、先端を舌先で強く拭うように前後に舐められ「んあっ!!」と大きく声が出る。千早を見れば、なんだか嬉しそうにしてやがる。こいつ…!!
「…悔しいんでしょ、俺にこんなことされて。気持ちよくなってさ」
「…んぐっ…」
ダメだ。抗わなければ、と思ってもやっぱりできない。
しつこく先端を舐めつつ扱かれ、「ああっ、ちょ、千早、もうすぐっ…で…」と頭を押して引き剥がそうとするが、完全に急所を押さえられていて力が入らない。「あっ……!」
やば、と思ったときには口の中に放っていた。「わっ、ちょ、ちは…」
あろうことか千早は俺からほとばしり出たものを全て口に含んだ。
「うわーっ!!出せ出せ出せ!!」デカい声を出して(やば、母ちゃんに聞こえる)とハッとして口を押さえる。その間も千早は俺のものを口の中に入れたまま離さない。
「バカっ…!!このど変態…!!」
涙目になっているうちに千早はそれをごくりと飲み込んだ。「うわーーっ!!やめろ!!」と言っても、もう遅いのだけど。
俺がギャーギャー言っていると、階段を昇ってくるパタパタとした足音が聞こえてきてギョっとする。
「ちょっと、数生?!千早くんと喧嘩でもしてるの?!」
「うわっ、違う違う違う、大丈夫っ!大丈夫だからっ!!」
「…そお?ならいいけど…」
と、なおもトン、トン、と、一段一段と階段を昇りつつ、心配そうな声で言うのが聞こえてきて俺は青くなった。さすがに千早も口を離してじっとしている。
スウェットとボクサーパンツを引き上げようとしたが、まだ勃っていたものが落ち着いていなくて引っかかり、慌てて掛布団で自分と千早を覆った。
「何にもないのね?」ドアの外で母親が言う。
「な、何にもないって…ちょっと、ゲームで盛り上がってただけ…」
「そう?…仲良くするのよ〜」
なおも訝しげな声で言うと、母親はまた階段を降りて行った。
はー、と俺は肩を落として安堵のため息を吐く。
「くっ…」
千早が堪りかねたように吹き出した。
「ちょ、何笑ってんだよ、千早…」
「だってさ、数兄…。めっちゃ慌てて、真っ青になってるから…」
「だからっ!!お前のせいだろがっ!」
「気持ちよさそうな顔してたくせに〜〜」
千早がニヤニヤ笑いを浮かべる。
「もー、帰れっ!!」
「ひでえ、やることやったら追い出すんだ?」
「お前の方だろ、やりたいことやってんのは!」
「やだな〜、もうちょっと仲良くしよ?」
急に可愛い顔をすると、千早が俺にまた覆い被さって来た。
ああ、まただ。どうしてこうなるんだ。完全にこの関係の主導権を握られてしまっている。
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