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第3話:過去編

これは、辻 秋生がまだ高校生の頃の話。 せっかく苦手な勉強を頑張って入学した高校にはほとんど登校していない。 医師である家系の秋生は、長男である自分には親は厳しかった。 中学までは親の言う通りに過ごしていたが、男も女も好きないわゆる『バイ』である自分を自覚して以来、親へ反抗するかのように遊び歩いた。 ある日、 「あっ、いいっ」 自分の部屋に街であった男を連れ込んでヤッていた。 その時、 バンッ!! 「秋生!煩いぞ、何やって・・・!」 突然部屋に入ってきた父親は、その光景を見て絶句した。 自分の息子が裸で知らない男に、後ろに突っ込まれている。父親はワナワナと震えている。 「なっなっ、何をやっているんだ!学校に行かないでフラフラしてあまつさえ、こんなっ」 秋生に挿れている男は慌てて抜いて、服を来てそそくさと出ていった。 秋生は風と息を吐き、服を着始める。 「良いトコだったのに、部屋に入ってくるなんて非常識・・・」 すると父親は、バッとその辺に置いていた秋生のカバンを投げつける。 「うるさい!この一族の恥が!!家は代々医者の由緒ある家系なんだぞ!?」 その言葉に秋生は頭をくしゃくしゃと掻き、 「俺は、一族のために生まれたわけじゃねえよ。あんたはあんたで医者になれ、ババアはババアで旅館継げって、うるせえし」 父親の家系は医者の家系、母親の実家はホテル経営と、秋生をどちらの後継者にするかいつも揉めていた。秋生の意見は無視して。 すると父親は怒りの形相で、秋生の胸ぐらを掴む、 「何だと!?お前は長男だぞ、いずれ家の病院を継ぐ運命・・・」 それまでを聞いて、秋生は自分の服を掴む父親の手をグイッと外し、 「バカバカしい」 秋生はそう言って、自分の必要なモノを大きなカバンに詰めて、 父親を睨んで、 「良かったね、恥な息子が出て行って。もう悩むことはないよ」 ニコッと笑い秋生は父親を突き飛ばし部屋を出ていく。 「さよなら」 それが家族との絶縁だった。 半ば勢いで家を出た秋生は、その日に髪を金髪にしてピアスを開けた。 もともと女のような綺麗な風貌をしている秋生は男にも女にもモテたので今まで相手には困らなかったが、誰かの家に行く気にはならなかった。 これからどうしよう。 真面目な両親とは昔から馬が合わなかったが、中学までは言う通りにしてきた。それは自分は子供で他に選択肢なんてなかったから。でも言う通りにする事に違和感があった。 自分は望んでいないのに、両親はどちらが長男を自分のレールに乗せるかでいつも揉めていた。そんな争いに巻き込まれる自分の人生がバカバカしくなっていた。 自分以外に家には頭の良い弟と妹がいる。2人のどちらかが実家を継ぐだろう。 自分はもういらない人間なんだ。 「あれー、もしかしてアキ?」 ふと声を掛けられて振り返ると、そこには高校のセンパイの山本 三咲がいた。 実は高校の2年センパイだが、かつて実家の喫茶店を手伝う事になり高校への進学を諦めていたが遅れて高校入学したため、年は秋生の5つ上である。 そのせいか何かと秋生を気に掛けてくれていた。 店の買い出しなのか両手に荷物を持って、秋生の座るベンチに腰を下ろす。 おせっかいでうっとうしいが、何故か拒否できない人種だった。 「どうしたの?金髪?ピアス?そんな大荷物で、もしかして家出とか?」 三咲には秋生の実家の話をしたことがあった。 家族と上手くいかないことも。 秋生は何だか三咲の顔を見ると、 ぐう〜・・・ お腹がなった。 三咲はふっと笑い、 「アキちゃん荷物持つの手伝ってよ。夜ご飯作ってあげるから」 「いや、俺荷物多いんだけど」 「いいから行くよ〜」 半ば強引に三咲は秋生を連れて行く。 三咲の実家の店カフェ『リボン』。 可愛い店名だが、名付け親は創業者である祖父で祖母がいつも付けていた髪留めがリボンだったからという理由と、人との縁をリボンのように結べたらいいなとの意味合いから付けられたそうだ。良いおじいちゃんだ。 秋生は三咲に荷物を渡し、 「じゃあ、俺帰るから」 「どこに?」 「・・・・・・」 沈黙する秋生。 そう言えば家出してきたのを忘れて思わず口に出してしまった。 「み、未来の旦那様を探しに・・・」 「冗談言ってないで、中入って手伝って」 ズバッと言ってくる三咲の態度に、秋生は好感を持っていた。 夕食の支度を手伝い、店の中で秋生と夕食を済ませ食後のコーヒーを飲みながら、 「それで、どうするのこれから」 三咲は秋生を真っ直ぐ見つめて聞いてくる。 まるで取り調べだと内心思いながら、秋生はふと視線を彼女からそらし、 「決めてない」 その秋生の答えに、三咲はハアッとため息を付き、 「何も決めてないのに、家を飛び出したの?バカじゃん」 「・・・」 「もっと考えてから家出たのかとおもったら、勢いでとか」 「だって・・・ヤッてる最中に部屋に入ってくんだよ?」 「行きずりの男を実家に連れ込んでる方が悪いわ」 「・・・・・」 取り調べじゃない。 これは説教だ。 完全に頭が上がらず、秋生はしゅんとする。 「親に反発するにしたって、もう少しやり方あるでしょう」 「思いつかなかった・・・」 「まったく」 三咲は、はあっとため息を吐き、 「秋生ってさ、器用よね」 「え」 「さっき夕食作るの手伝ってくれたでしょ?まだ慣れないだけで、料理向いてるんじゃない?」 「そ、そうかな・・・」 秋生はポカンとして、彼女を見た。 そんな事を言われるの初めてだったから。 「少しうちの店で手伝ってみる?料理も覚えられるし。それに」 三咲は秋生の荷物をチラ見して、 「どうせ行く宛、無いんでしょ?」 何だかんだ優しい。 「ありがとう、三咲センパイ」 控えめに微笑み、お礼を言う秋生。 三咲は秋生の頭を優しく撫でた。 その後三咲は離れの家に秋生を連れていき、両親に事情を話す。 以前この店に食事に来た事があり、その時に三咲から後輩だと紹介されている。 両親は店を手伝うとの事だったので快く、秋生を迎え入れた。 「おじさん達、よく許したね」 秋生は以外だとうい顔をして三咲に問う。 三咲の実家の客間をあてがわれた。彼女の両親は綺麗な秋生を気に入ったようだった。 「秋生可愛いからね。家の家系は美人に弱いから」 「なにそれ」 秋生はふっと笑う。 ふと三咲を見つめ、彼女の顎をくいっと上げ、 「お礼は、身体で払った方がいい?」 「バカ」 と、色っぽく見つめる秋生に、三咲は冷静に彼のオデコにデコピンをする。 「好みじゃないくせに」 「バレたか」 デコピンをされた額を擦りつつ、秋生は舌をべっと出した。 「あと、私彼氏いるし」 「あ、そう」 「婚約してるし」 「あらま」 と、秋生は考えて、ピンとくる。 「もしかして、及川 拓真センパイ?」 「ピンポーン♡」 三咲は嬉しそうに笑う。2人は幼馴染でいつも一緒にいた。 「うちの店、高校卒業したら一緒に継いでくれる予定なんだ」 「へえ、やるじゃん」 若くして将来を決めている三咲を本当に尊敬する。 自分は将来何をしたいのか、秋生は今まで考えたことがなかった。 容姿には自信があったが、特技と呼べるものがない。 「あとさ秋生」 「ん?」 「あんた一人称ホントは『私』でしょ?無理して俺とか男口調言わなくてもいいわよ」 誰にも気づかれなかったのに・・・ やっぱり三咲はすごい。 「…ほんと、センパイには敵わないわね」 「三咲でいいわよ、おやすみアキ」 優しい笑みを浮かべ、三咲は部屋を出ていった。 秋生は三咲の実家の布団の上で転がり、 考えを巡らせる。 自分は何がしたいんだろう? 秋生は自分の人生を今一度、考えることにした。 三咲の実家の店に居候しながら、店を手伝い段々と料理が楽しくなってきていた。 まあ素人では有るが。 一人称を私にし、オネエ口調で本来の自分を出せた事で心も安定して来ていた。 常連客とも打ち解けるようになり、人生相談などもされるようになってきた。 不思議だった。 自分自身が相談する相手もいなかったのに、 今では居場所をくれる人がいて、声掛けてくれる他人がいる。 今の自分は、 今までの自分の世界では考えられなかった。 ずっとしてみたかった金髪にして、 ピアスを開けて、 もう自分を偽らなくなると、 まるで生まれ変わったような気分だった。 高校生であるため、本来は金髪は禁止だと生活指導の先生に言われたが、 調べてみると学校の校則には髪を染める事やピアスを禁止する記述はな無いことを指摘すると学校側は口ごもった。 真面目に学校に来るようになり、だんだんと先生には何も言われなくなった。 その後三咲達は先に卒業し、センパイ2人は結婚。 実家の店を継いだ。 秋生は他のバイトも始め、 一人暮らしを始め三咲たちと一緒に店を切り盛りするようになった。 秋生は3年になると自分の進路をしっかり決めた。 秋生の夢はいつか自分の店を出すこと。 そのために、大学に進学しながら働くことを決めた。 「意外だったわ。大学に進学するなんて」 夕食の用意をしながら、三咲は秋生に声かけた。 もう一緒に住んでないが、食事は皆で食べるのが三咲の家の習わしだった。 「どういう心境の変化?」 「たいしたことじゃないわよ」 味噌汁が入ったお椀を渡され、秋生はふッと笑う。 「しかしよく合格したな。あんだけ高校サボってたのに」 同じテーブルについている、三咲の旦那の琢磨が白飯を口に含みつつ呟く。 「必死に勉強したもの。ホント死ぬかと思ったわ」 やっと進学が決まって秋生は、ようやくゆっくり出来ていた。 「ほんとえらいよ秋生」 三咲が感心しながら秋生の頭を撫でる。 「あんなに燻ってた秋生が」 と、泣くそぶりをする。 「やめてよ、もう」 照れる秋生。 とここで、秋生の携帯が鳴る。 携帯を覗く秋生を見つめ、なにかに気が付く三咲。 「アキ?」 秋生は顔を強張らせていた。 週末 秋生はある人物と待ち合わせをしていた。 「遅れてゴメン、兄さん」 秋生が振り返るとそこには、一人の女子中学生が立っていた。 秋生の妹の優里亜だった。 家族の中では、比較的秋生とは話す方だった。 「・・・ひさしぶり」 秋生はほぼ半年ぶりに、まともに顔を合わせた。 優里亜は秋生を見るなり、 「うわっ、金髪じゃん高校生の自覚ある?」 「学校には了承を得てる」 「でも何か兄さんらしいかも」 「え?」 「うちでは、というか・・・今まで無理して自分を作ってたじゃない」 15歳の割にマセている優里亜は、いつも冷静だった。 ただ、親の前ではいい子を完璧に演じていた。 「長男だからって、家を継ぐ必要はないしね。そんなのバカバカしいじゃん。兄さんが家出て行ってから、賢太郎に全てを掛けてるよ父さんと母さんは。まあ賢太郎本人は喜んでるけど」 その言葉に、きょとんとする秋生。 親の期待を背負って弟が喜んでる・・・? 「喜んでるの?」 優里亜は頷く。 「賢太郎は兄さんに敵意むき出しだっだでしょ?本当は自分が医者を継ぎたいのに兄さんはズルいって、ずっと言ってたから」 そうなんだ。知らなかった。 今まで、家族とまともに話したことがなかったから。 「知らなかった。・・・いや知ろうとしてなかったのね」 ふっと、笑う。 それが優里亜には少し悲しげに見えた。 「それでこれからどうするの?」 あまり自分の事を言いたくない。 秋生が躊躇していると、 「他の家族には言わないから」 そう言い聞かせられ、 「・・・大学進学と、今センパイの店でキッチンに入ってる。 いずれ・・・自分の店を出すつもり。それが私の目標」 はっきり伝える秋生。 自分の未来のヴィジョンをしっかり持っている事に、驚いた優里亜。 でも、きっとこれが本当の秋生だ。 優里亜はそう感じた。 「今、かっこいいよ兄さん」 「え」 「最高にカッコいい」 優里亜は優しく笑い、そしてすぐにいつもの冷静な顔に戻り、 「実家の事は私と賢太郎が継ぐから。何も心配しないで。途中で挫折した腰抜けに、病院を継ぐなんて無理だし」 皮肉を口走る優里亜に、秋生はくすっと笑い、 「それはどうも」 「じゃあね、さよなら秋生さん」 家族との決別。 もう二度と会うことはないだろう。 でもそれでもいい。 優里亜の帰っていく後ろ姿を遠くまで見つめながら、 いつのまにか頬を伝っていた涙をぐいっと腕で拭う。 「さて、行きますか」 秋生は笑顔で、新たな人生へと歩き出した。 過去編・終

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