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第2話:新治と友の場合

辻 秋生(30)は高校時代の先輩夫婦のカフェでキッチンを担当しながら、いずれ自分の店を出すことを目標にしていた。 秋生が働くカフェ『リボン』には、男子大学生のバイトが2人いる。 今回は、その2人のお話ーーーーーーー 森川 友(23)はいつものようにバイト先のカフェ『リボン』にて仕事に励んでいた。 彼には最近悩みがある。それは・・・ 「森川、これよろしく」 同じカフェで働く羽山 新治(23)にすぐそばで声かけられ、ビクッとしながら、 「お、おう」 今出来上がったディナープレートを注文された席に運ぶ。 最近新治の友に対する距離が近いのだ。 2人は中学の頃から同級生で、大学生になった時同時にルームシェアを始めた。バイトも家も大学が近いこの場所を選んだ。 おまけに友より新治の方が背が高く、ちょうど新治の口元が友の耳の辺りになるため耳元で囁かれている様な感じになって、ぞわぞわする。 大学でもいつも隣の席に座るし、家の中でもいっしょに料理を作ろうとするし、常に一緒に行動しようとする。周りは2人は仲がいいとしか思っていないので、特に変化はないが。 その新治の行動に戸惑いつつ、友は何故かゾワゾラするのだ。 仕事が終わって2人は一緒に家に帰宅。 「森川あのさー」 新治はカバンをリビングのソファに置きながら、友に話しかけるが、友は何やらブツブツ呟いてこっちの話を聞いていない。 新治は数秒考えてから、友の肩に手を置き友の耳元で、 「森川ってば」 「ひゃあ!」 急に耳元で声掛けられ、変な声を出しバッと新治の方をふりかえる。耳を抑えつつ、 「耳元で喋るなよ!」 「ご、ごめん。呼んでたのに気づいてくれないから」 「そ、そうか。で、何?」 「・・・・俺、明日実家に行くからバイト休む、帰りは遅くなる」 「そ、そう」 答えつつ、友はそそくさと自分の部屋に戻った。 「・・・」 それを見送りつつ、新治は顔を押さえる。 次の日 「友ちゃん、大丈夫?」 アキにそう尋ねられ、友はキョトンとした。 「え、何がですか?」 本日の業務を終え、店内の片付けを終え落ち着いてからアキは友に声を掛けた。 「今日、ボーッとしてたし、最近何か考えてるでしょ?」 「・・・そんな事は」 控えめに答えるが、アキに真っ直ぐ見つめられ、もじもじしながら話し始める。 「最近、羽山が何か、その、近いっていうか」 「近い?」 「声掛けてくる時も、家にいる時も、大学でも。何か距離が近い気がするんです。それでどうしたのかなと・・・」 アキはもじもじ話す友を見つめ、きょとんとする。 (なるほど・・・) 話を聞いて、最近の新治の行動、2人の距離を思い出す。 確かに新治が友と話す時の距離は近い。しかし本当にそれは最近からなのだろうか? ここのバイトになった時は、最初に友が面接に来て、追いかけるように新治が面接に来た。 「それって、本当に最近?」 「え」 「新治って、友ちゃんには元々距離近いように感じてたけど、友ちゃんがそれに気が付いたのが最近なんじゃない?」 最近距離が近くなったと言うよりは、新治は元々距離が近かったが友がそれに気が付いたのが、最近なのではないのか・・・? 「・・・・・」 思いもしなかった言葉に友は沈黙する。 「距離が近いことで、友ちゃんは嫌な思いをしているの?」 「・・・・い、いえ別に嫌では」 嫌では無いけど、何故なのかをふと考えてしまった。 アキは頭をくしゃくしゃと掻き、 「友ちゃんて、鈍感よね」 「え」 「いつから距離が近いのか、考えてみれば?」 「・・・はい」 友は久しぶりに一人で帰った。 思えば中学の頃にたまたま同じクラスになり、席が後ろになった新治と話をするようになった。初めて会話をしたのは友からだった。 友が好きな作家の本を信じが呼んでいた事で仲良くなり、以来いつも一緒にいた。勉強会もゲームもお互いの実家でするようになり、一緒の高校2進学し、大学を期にルームシェアを始めたそれは新治からの提案だった。 考えれば新治はいつも友の隣にいて、距離は割りと近い方だったかも。 それを他の友人に指摘されたことがあったが、何をイッているんだと思った。 友はシャワーを浴びて一人でリビングのソファに横になっていた。 そこには昨日から置きっぱなしの新治のパーカー。 友はその新治のパーカーを抱きしめ匂いを嗅ぐ。 昔からだ。新治の匂いって安心する。 中学の時も新治の部屋に泊まりに行った時の方がよく眠れた。 友はそのままウトウトと眠りについた。 「ただいまー」 新治は0時を周って帰宅した。 新治の実家は月1回帰るようにしている。今は親からの仕送りを貰っている身であるためと、友とのルールシェアで共に迷惑をかけていないかをチェックされる。新治の家族は友を気に入っているため、心配だというのだ。 リビングのソファに友が寝ているのに気が付き、 「森川ー、こんなとこで寝れると風邪引く・・・」 声掛けようとして、新治はハッとした。 風呂上がりのTシャツと短パンでへそが見えている。細い足も、首筋も・・・ そして友は新治のパーカーを抱きしめたまま眠っていたのだ。 新治はその光景をマジマジと見つめ、 「あー・・・」 頭を抱えて、悶える。 (なんて可愛いことしてるんだよ・・・) 「ん・・・」 友は寝返りを打ち、仰向けになる。 新治は無防備な眠っている友のTシャツをグイッと目繰り上げる。 ツヤツヤとした風呂上がりの素肌があらわになり、ちょんっと友の綺麗や乳首をつっつく。 「あ」 聞いたことのない声を漏らす友。新治はそのまま友の乳首を擦る。 「ん・・・あ」 気持ちよさそうに顔を背ける友。いつの間にか友の股間が少しだけ反応していた。 それをみて興奮する新治。 ダメだ。これ以上は。万が一今友が置きたら、気持ち悪いと嫌われる。 出て行ってしまうかも知れない。 中学の頃から、新治は友が好きだった。ただの友達で居ればずっと一緒に入られる。 だから、今まで友に触れるのを我慢していた。 でも、他の誰かが友に近づくのも嫌で、なるべく友の側にいた。 でも最近それだけじゃ我慢できなくなってきて新治は困っていた。 トイレや一人でいる時に、友の事を考えながら抜いて、2人でいる時は我慢出来るように。 でも、今みたいな姿を見せられてさすがに我慢が出来ない。 新治は手を引っ込めて、友のシャツを戻し、 「森川、起きろよ。こんな所で寝てると風邪引くぞ」 「んー」 目をこすりなが、まだ身体を起こせない友。新治は仕方なく友を抱きかかえ部屋に運んでやる。運ばれながら、友はうとうとと、 「遅かったなー・・・」 「うん、親戚集まっててさ」 「そう・・・」 友は新治の首に腕を回し新治の匂い嗅ぐ。 「お前の匂いって、安心するな・・・」 「え」 「ぐー・・・」 友はまた眠りにつく。 気を持たせることを言う友の天然に、完全にノックアウトされる。 (かわいすぎだろ) 新治は友を彼の部屋に寝かせ、友の寝顔を見つめる。 (キスしたい・・・) 愛しさが日々増していく。気がつけばいつも友を目で追っていた。 最近押さえが利かなくなって困る。 新治は友の部屋を出て、扉を締めた。 その扉の外で新治はへたっと床にへたり込み、 「好きだ・・・」 思わず声を漏らしていた。 ずっと口にするのを我慢していた。 これからも一緒にいたら、きっともう自分を制御できない。 快楽に身を任せて、友が嫌がることをしてしまう。 次の春には大学を卒業する。 そうすればルームシェアもきっと解消だ。 お互い違う職場に就職して、それぞれの生活を手に入れて、 離れればちゃんと、友達でいられる。 翌日 「おはよう」 新治は洗面所の入り口の外から、友に声かけた。 「お、おはよう」 顔をタオルで拭きながら、友は新治を見つめた。 「???」 新治はそれ以上話しかけてくることも、近づいてくることもない。 あれほど新治の友に対する距離が近かったのに、 急に近づいてくることはなくなり、友はまた混乱した。 いや、これが普通の距離なのだろうか。 自分が気にし過ぎだったのか・・・ 「そういえばさ、就職決まった?」 友が話しかけると、新治は顔を見ずに、 「2つに絞ったから、来月には決まると思う」 「そ、そう」 「森川は?」 「俺はもうすぐ決まる」 「そ、良かったな。入りたかった企業だもんな」 「うん」 一応普通に受け答えをしてくれる新治。 そのまま新治は身支度を済ませ、 「俺、今日早いから先出るわ」 「あ、うん」 玄関に向かう新治は、ピタッと止まり、 「一緒に済むのも、卒業までだな」 「え?」 「2つに絞ってるけど、・・・俺県外の企業にしようと思ってる」 「・・・」 「あと少し、よろしく」 と、笑って新治は先に家を出ていった。 友は、呆然とその場に立ち尽くした。 ルールシェアを解消・・・? 考えてなかった。 お互いが就職しても、このままずっと一緒に住むんだと、 何も疑わずに思っていた事に、友は初めて気が付いた。 そう、だよな・・・ ずっと一緒なわけ無いか。 急に胸が苦しくなった。 『・・・・』 最近、友と新治の距離感がおかしい。明らかにおかしい。 アキは2人を数日観察していたが、新治が友と距離を置いているようだ。 今まではどこに行くにも一緒だった。 家も大学も一緒なのに、職場に来るのも帰るのもバラバラ。 あまり必要なこと意外話をしないし。仕事に支障はないが、おかしい。 仕事が終わって後片付けをしていると、 「じゃあ、俺先帰るから」 いつものように新治は友より先に帰ろうとする。 新治は友を見て、ぎょっとした。 友は、グシャグシャに泣いていた。 「うぐっ・・・何で先に帰るんだよ!同じ家に帰るのに!!」 もう我慢の限界だったのか、アキや三咲がいるのに、気にせず友は泣き叫んでいた。 「就職したらルームシェア解消するとか! 何で急に離れようとするんだよっ!」 それを見て、オロオロする新治。 「何で、泣くんだよ・・・」 「だってっ、うぐっ・・・ずっと一緒にいると思ってたから・・・うう」 その言葉に、新治の理性はプチっとキレた。 友は突然新治に肩を掴まれ、強引にキスされた。 「んん!」 舌を入れられ、息が苦しい。 何とか口を放して、 「ち、ちょっと羽山ッ」 何と離れようとするが、新治の力が強くて離れられない。 「んんっ」 再び新治に唇を奪われる。 ゾクゾクするが、あまりに強引で心が追いついてこない。 怖い。 「まって、離して・・・、こんなの嫌だ!」 新治は我を忘れて、友のズボンに手を入れようとして、 ゴッ!! アキは新治を殴り飛ばし、友から放す。 新治は思いっきり入り口まで吹っ飛んで行く。 アキは友を後ろに庇い、今さっき殴った新治を見下ろし、 「とりあえず頭冷やそっか」 その言葉を聞いて、新治はようやく冷静になった。 三咲はアイスノンを新治の頬に当ててやり、アキの手にも置いてやる。 「人殴るなんて慣れないことするもんじゃないわね・・・」 真っ赤に腫れている手を冷やしながら、アキは悪態をつく。 明るく振る舞っているが、新治を心配している。 新治は頬を冷やしながら、捨てられた子犬の様な弱々しい顔をしていた。 「止めてくれて、ありがとう。・・・アキさん」 「ちょっとやりすぎたわね。ごめん新治」 新治はフルフルと首を振り、 「あれで良かった。止められなくて、自分で怖かった」 店の奥の4人席に座り、向かいに座る友を見つめる。 「さっきはごめん」 友は黙ってた。 さっきのは知ってる新治じゃなかった。 怖かった。 でも、それだけじゃない。 三咲はアキと顔を合わせる。 「私達、席外そうか?」 アキが尋ねると、新治は首を横に振る。 「俺が冷静にでいるために、2人とも居て」 新治はアキの方は見ずに、 「俺がこれから口に出す言葉が適当じゃなかったら、指摘して欲しい」 アキは三咲に肩をすくめてみせる。そして新治を見つめ、 「あんたの気持ちから出た言葉なら、間違いなんてないわよ」 新治は頼もしい心持ちになり、はあと息を吸う。 改めて、友を見つめ、 「最近森川と距離をとっていたのは、自分を押さえるためだった」 「おさえる・・・」 「さっきみたいに、森川を傷つけてしまうかもしれないって、いつも思ってた」 怖いけど、新治は続けた。 「中学の頃初めて、同じクラスになって・・・同じ作家が好きだって森川が俺に話しかけてくれて。その頃から」 心臓が飛び出そう。 「ずっと好きだった」 新治は、苦しくなる自分の胸を押さえながら、 「最初は友達として一緒にいられれば、それで良かった。高校だって大学だって同じ所に行きたくて死ぬほど勉強したし、少しでも連れ歩いても自慢の友だちになりたくてファッションとか勉強したし、料理だって森・・・友の好きな食べ物を友の実家でリサーチして必死で練習したし、ルームシェアだって、友が気に入る物件必死で探したし、バイトだって同じ場所で働きたくて」 熱烈な言葉を聞いて友は呆然としていた。 アキは感心していた。 これだけ一途な思いがあるだろうか。 深くて重くて、 一歩間違えれば、 とても恐ろしい想い。 新治本人は、ずっと苦しかった。 一生伝えることはない想いを、一生背負って生きていくことを、 中学の頃に誓ったのに。 自分で決めたのに。 それを、自分で壊した。 友は一人で考えたいと言うので、新治は実家に帰ろうと思ったが、 アキがうちに来なさいと半ば強引に引っ張って帰った。 「別にいいのに・・・」 まだブツブツ言う新治にアキは、 「バカね、一人にして危ないのはあんたでしょ?」 「え」 きょとんとする新治に、アキは後ろを振り向かないまま、 「あんたって、あんまり出さないけどネガティブ要素強いでしょ。今まで押さえてきた気持ちが自分で制御できないんだから、絶対一人になっちゃだめよ」 変に言い当てられ、新治はドキッとした。 周りにはネガティブな自分を隠してきたつもりだったのに。 アキの家に行くと、温かいスープを出してくれた。 そのスープを飲みながら、アキの部屋を見渡した。 キレイに整ってかつシンプルな部屋。アキの性格を表しているかのようだった。 「何もないでしょ?飾るものって興味がないのよ」 部屋を見渡している新治に、静かに語るアキ。部屋着に着替えスウェットの上下を新治に渡す。 「学生の頃から、自分の店を持つのが夢だったから、料理の勉強に仕事に手一杯でね」 自分もお茶を飲みつつ、 「でもそれなりに男とも女とも遊んではいたけど。私バイだから」 初めて聞いた仕事以外のアキ。 「まあ、今は智之くんがいるから、幸せだけど」 「彼はどんな人ですか?」 「私より大きくて大人しくて、優しくて・・・もともと店の常連だったんだけど。いつの間にか、好きになってた」 そう話すアキは本当に優しくて綺麗だった。 それに比べて自分は・・・ 新治は膝を抱えて座り、頭を埋める。 「俺は好きな奴になんてことを・・・」 するとアキは、 「誰にだって間違うことはある。それこそ大事な人を傷つけることだって」 アキは真っ直ぐに新治を見つめる。 「自分を制御なさい。新治、友が何を選択したとしても」 それだけ言って、アキは新治の頭をくしゃくしゃを撫でて自室へ入っていった。 新治はその日、久しぶりに深く眠った。 友は、家のリビングにいた。いつも2人でいたこの場所で1人。 ソファに越しかけ、いつも一緒にいた新治の事を考えていた。 この家に一人で入るのは嫌だった。 2人でいれば、いつも新治の息遣いを聞いて、気配を感じて、安心した。 中学からいつも一緒だった。 ずっと、一緒だった。 新治が自分の隣にいるだけで、楽しかった。 友は新治の部屋に入り、彼のベッドに横になった。 部屋に入るだけで、新治の匂いを感じて安心する。 友はさっきの出来事を思い出す。 強引に何度もキスされた。 その時の新治は何だか追い詰められたようだった。 それだけ自分の気持ちに蓋をして、無理していたのだろう。 「もっと、優しくキスしてくれたらいいのに・・・」 友はそう呟いて、はっとする。 今自分は何を言っている・・・? キス自体は嫌じゃないというのか? 友は考えたが、嫌では・・・なかったと想う。 キスされて、ビックリはしたが、身体がゾクゾクした。 強引に口の中に舌を入れられ強く肩を掴まれ、 あれが、もっとそっと優しくしてくれたら、抵抗しなかったと思う。 それが、友の中ではっきり分かった。 友は新治の枕の匂いをすうっと嗅いで、何だか高揚する。 ふっと、笑い、 「なんだ・・・俺好きじゃん」 あまりに当たり前になっていて気が付かなかった。 新治の匂いが好きなんて、本人が好きだと言っているようなものだ。 翌日 新治は大学もバイトも休んだ。 アキの話だとひたすら眠っているらしい。 長いこと自分に無理していたからだろうか。 友は大学の帰りにカフェ『リボン』に来て、仕事が終わった後、 「アキさん」 片付けを終えたアキに友は声かける。 「今日アキさんの家に一緒にいっていい?」 そう話す友の真っ直ぐな表情に、 「心は決まったのね」 「はい」 その返事を聞いて、アキはふっ優しく笑い友の頭を撫でた。 「ただいまー」 アキは声かけて家に入る。 新治はテレビからふと顔を上げると、アキはくいっと外を指差し、 「お迎えが来てるわよ」 「え・・・」 外に出ると、そこには友がいた。 新治は一瞬ためらった。 友の話を聞けば、もう一緒にいられないかもしれない。 これが別れの挨拶かも知れない。 あんな酷いことをした自分を、友が許してくれるわけ無い。 新治の心は、ネガティブな想像に掻き立てられた。 でも、勇気を出して、友の待つ外に出た。 友は冷静だった。 「・・・と、友」 自信なさそうに声を漏らす新治。そのまま続ける。 「昨日は強引にキスしてゴメン。友が俺と離れるのが嫌だって言って泣くから、たまらなくなって・・・自分の気持ちが押さられなかった」 ぎゅっと、拳を握りしめる。 「友がもう俺と一緒にいるのが、嫌なら早めに出ていくし、もう大学でも話しかけないから」 そういう新治を、友はキッと睨んで、 「だから、それが嫌だって言ってんだろ」 ビシッと言い切る友。新治はビクッとなる。 「え・・・?」 「お前が俺から離れていくのが嫌だって言ってんだろ!昨日の話聞いてたのかよ」 「だ、だって、俺、友に酷いこと・・」 「そりゃ好きも何も言わないでいきなりキスされたら、誰だってビックリするだろ!あ、あんな強引に・・・」 そう話す友の顔が急に赤くなる。 「・・・?」 新治は友が何を言おうとしているのか分からない。 訝しげにする新治に、友は顔を真っ直ぐ見たまま、 「キス自体は、嫌じゃなかった」 これは夢なのか、 新治は友の言葉を聞きながらそう思った。 心が、ふわふわとする。 「お前とキスするのは嫌じゃないけど、あんな強引なのは嫌いだ」 「・・・嫌じゃなかったの?」 友は頷いた。 その言葉に新治の目に涙が溢れてくる。 信じられない。 もう、離れるしかないと思ってたから。 ぐしぐしと泣き始める新治に、友はバッと腕を広げ、 「新治!帰ってこい!」 新治はその腕の中に泣きながら飛び込んでいった。 号泣する新治を笑いながら、でも、大事そうに抱きしめる友。 それを後ろで見つめウルウルするアキ。 同性での恋愛を沢山見てきたアキは、悲しい結末もたくさん見てきた。 でも、2人には杞憂だったと安心した。 「ほんと、良かったわぁ」 2人より泣き始めるアキに、友と新治はきょとんとして、2人で笑い、 「俺たちより泣かないでよ」 「だって・・・心配してたのよ!!」 こんなアキを見たことがない。本当に心配してくれていたんだろう。 2人は顔を見合わせて泣きながら笑い、同時にアキを抱きしめた。 「ありがとうアキさん」 「もうっ、本当にバカなんだから!」 アキは2人を力いっぱい抱きしめた。 新治は友と家に帰った。 久しぶりに帰った2人の家は、何だか懐かしかった。 この間までの自分の心境を想い、かなり余裕がなかったことに気が付いた。 この世の終わりのような感覚とはもう違う。 自分を取り巻くフワフワとした空気が、気恥ずかしい。 「新治」 友はカバンを置いて、 ソファに腰掛け新治にも腰掛けるよう促す。 新治はそっと、隣に座る。 友は真っ直ぐに彼を見つめ、 「こないだのは、強引であまり好きじゃなかったから・・・」 「うん、ゴメン」 「だから・・・その」 「?」 もじもじとする友に、きょとんとする新治。 「もっと・・・甘くキスして」 「!!」 びっくりして声を失う新治。 顔を赤くして、もじもじと話す友に、また理性が飛びそうになる。 かわいすぎる。破壊力がすごい。 「ほんとにキスしていいの・・・?」 まだためらう新治に、友は彼の首に腕を回し、 甘咬みするようにキスしてくる。 柔らかく何度も、何度も。 新治は心臓が飛び出る程ビックリする。 友は新治の反応を楽しんで、今度は口に舌をいれていく。 新治がその反応にゆっくり答えると、友は柔らかく優しく、吸い上げるように、 また撫でるように舌を動かしていく。 新治の血がどんどん上がっていき、気持ちよくてすでに完勃ちしている。 新治は強引に押し倒したい衝動を必死に押さえ、ゆっくり友の背中に腕を回し、 そっと抱き寄せる。友も勃っていた。 新治は口を離し、 「もっと、触って良い?」 「甘くしてくれたら、いいよ」 その言葉にもう理性が爆発しそうになるが、ぐっと我慢する。 新治は友をソファにゆっくり寝かせ、さっき友がしてくれたように柔らかくキスをして、友のシャツのボタンを外していく。自分もシャツを脱いで、お互いの素肌をひたっとくっつける。 お互いの心臓がバクバク言っている。 「下触って良い?」 「ん・・・」 新治はお互いのモノをズボンから出して一緒に握り擦り合わせる。 「っああ・・・」 声を必死に我慢する友がたまらない。 全てが可愛くて、愛おしくて・・・ 2人で同時にイッて、一気に脱力する。 新治はソファの上で、友を抱きしめたまま。 「ありがとう、友。大好きだ」 心が不思議と落ち着いている。 もう乱れたりしない。 友は新治の額にキスして、 「もう、離れないでね」 そう言って、新治を抱きしめる。 その言葉に胸がいっぱいになる。 「一生離さないから。後悔するなよ」 涙ぐんで笑う新治の言葉に、 「望む所だ」 友は笑ってキスをする。 その後、 新治は県外じゃなく、近くの就職先を選んで内定をもらった。 友も、希望していた会社に内定をもらい、2人は就職先を決めた。 「来年には2人やめるのかー」 「そうなるね」 2人の報告を聞いて、三咲はしみじみとつぶやく。 「寂しいわね」 それに、頷くアキ。 「まあ仕方ないわよ」 「求人出すかー」 三咲はそういって今日の支度を始める。 「アキさん」 新治に呼び止められ、エプロンをしながら振り返るアキ。 そこには今までとは違って、落ち着いている新治と友。 「本当にありがとう、アキさんがいなかったら、もっと悪くなってたかも知れない」 アキはふっと笑い、 「解決したのはあんたたちよ。私は何もしてないわ」 その言葉に新治は、首を横に振る。 「話を聞いてくれるだけでも、違ってた。俺には本当に相談する相手がいなかったから」 さみし気にうつむく新治の手を友が握る。 アキは黙って2人に向かい合う。 「アキさんみたいな人がいれば、きっと俺みたいなヤツの救われると思う」 「役に立てて、良かったわ」 アキは2人の頭を撫でる。ふふっと笑い、 「で・・・昨日、ヤッたの?」 「!」 「あ、アキさん!」 急にはっきり聞いてくるアキに、2人は慌てて顔を赤らめる。 「なぁんだ、まだなのぉ?早くヤッちゃいなさいよ」 と冗談っぽく吐き捨てて、仕事に戻る。 2人に背中を向け、アキはそっと涙を拭った。 気を取り直し仕込みを始める。 ーーーーーーある日の夕方、 アキのスマホに病院から電話がかかる。 どうやら智之が怪我をたとのことだった。 夜の仕込みを終えた所だったので、三咲に促されアキは病院へ向かった。 どうやら、道路に飛び挿そうとした子供を助けて軽い怪我をしたとの事だった。 アキが向かうと、智之が顔と腕に絆創膏を貼って、廊下のベンチに座っている。 「・・・大した事無いみたいね」 アキは走ってきたのか、肩で息をして落ち着く。 「うん、心配させてごめん」 お人好しの智之はすぐに人を助けて怪我をすることがあった。 そのたびに、アキは背筋が凍る思いだった。 でもそれを本人に言ったことはない。 誰にでも優しい智之が、アキは好きだったから。 アキははぁーっと息をつきながら、しゃがみ込んだ。 それを見て智之はアキの頭を撫でる。 「ごめん」 「ほんと、バカ・・・」 アキはめずらしく気弱な声を出した。 いつもはお人好しだの何だの、皮肉を言ってくるのに今回は何も言わない。 職場の大学生のゴタゴタで、つかれたと言っていた。 「道路に出た子供は、すぐに引き止められたんだけど自分が持っていたものが道路に出ちゃって、それを拾おうとして、危なく引かれそうになった。逆に子供の腕を引っ張られて助けられたんだ」 なにそれ、と口に出そうとしてアキは顔を上げると、目の前に小さな箱を差し出している智之。その箱をじっと見つめるアキ。 智之はその箱を開け、中に入っている指輪を見せる。 「一緒に暮らしませんか」 思いもよらなかった、智之の行動にアキは固まった。 つきあって3年。それなりに仲良くしていると思っていたが、そんな展開は臨んでいなかった。 そこまでは望めないと思っていたから。 智之はアキの左手の薬指に指輪をはめる。 「なんでピッタリなのよ・・・」 「そりゃ、隙を見て測ったからね」 ふふっと笑う智之。 「アキさん、皆に頼りにされてるから、ちょっと妬ける時もあるけど」 智之の左手の薬指にはお揃いの指輪が光っていた。 「でも、そんなアキさんとずっと一緒にいたい」 アキは床にへたり込む。 智之をじっと見て、なんて言っていいか、口をパクパクさせる。 彼は、指輪をしたアキの手にキスをして、 「愛してる、秋生」 アキは頬を伝う涙を拭い、智之に抱きついた。 「私も愛してる」 智之は、今アキを幸せに出来るのは自分である自覚があった。 いつも周りを心配しているアキの、帰る場所になることが、ずっと希望だった。 その役目は一生誰のも譲れない。 その後、智之は応募した小説が大賞を取り、夢だった作家デビューを果たした。 アキは自分の店を出すための準備を始めた。 2人のそれぞれの夢を一緒の家で過ごして、お互いを支え合って生きていく。 そう誓ったのだった。 終。

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