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第2話

 三日後は、あっという間にやってきた。  なんでも、本来ならオイルマッサージは女性向けのサービスで、施術も女性スタッフがしているらしい。  しかし、俺の身体があまりにもガチガチなので、服越しのマッサージよりもそちらの方が効果が高いだろうと、普段オイルマッサージはやらないが資格は持っているとういう司波さんが、直々に施術してくれることになった。  ……まあ正直なところ、俺としては女性スタッフにオイルマッサージしてもらう方が嬉しいな……いや、こんなことを言ったら良くしてくれている司波さんに失礼だからやめておこう。  実はあれから、自慰の時に胸も弄るようになってしまい、心なしか乳首が勃ちやすく感度が上がってしまったような気がしているのだが、果たして大丈夫だろうか……。 「あのー、すみませーん」  本当にやっているのかと心配になりそうな仄暗い出入り口を抜けると、中の照明も最低限のようでかなり暗い。そのうえ受付けにも待合室にも人が居なかった。 「あれ? これ、本当にやってる……?」 「こんばんは、相馬さん」 「うわっ、司波さん!」  いつの間にか近づいてきていた司波さんに声を掛けられて、驚いてのけ反った。 「すみません、驚かせちゃったみたいで」 「大丈夫です。それよりも、他のスタッフさんとかお客さんは……?」 「ああ、うちのお店、本当は受付け七時半までなんですよ」 「え!?」  慌てて手元の会員証を確認すると、確かに最終受付け時間は七時半までになっている。 「俺は元々お金の確認とか諸々の作業でこれくらいの時間まで残っていますし、家も遠くなくて少しくらい遅くなっても大丈夫なので、この時間にさせて頂きました」 「そうなんですね」 「はい。なので、もし相馬さんがもっと早い時間の方が良ければ合わせられますので、教えて下さいね」 「えっと……はい」  司波さんにかける負担を考えれば、やはり受付け時間内に来たいとは思うのだが、仕事をなるべく早く切り上げてここまで来る移動時間までをトータルして考えると、やはり今の八時くらいが限界のような気がしてしまう……。 「でも、私としても今くらいの時間の方が都合良いので、無理しなくても大丈夫ですよ」 「え?」 「今日も、沢山声出しちゃって大丈夫ですからね」  心なしか上機嫌な司波さんは、出入り口の鍵をカチャッと閉めた。 「あの、鍵……?」 「また相馬さんが帰る時に開けますよ。開けておくと、時間外って分かっていても案外人が入ってくるんです。今は俺しかスタッフが居ないので、そういう人にまでは対応できませんし」 「なるほど……」 「こういう仕事をしていると、時々驚きますよ。色々な人がいて。……ああ、でも相馬さんの職場にも、そういう我が強い人が多いのかな」 「そうかもしれません……」  笑顔で仕事を押しつけてくる人達の顔が次々と浮かんでは消えていく。 「……お疲れ様です。今日は、俺がゆっくり解してあげますからね」  優しく微笑まれて、自然な動作で肩が抱かれた。 「あの」 「さあ、施術室へ向かいましょうか。もう準備は済んでいますよ」  肩に置かれた手が、身体のラインを確認するようにスルスルと下りていき、やがて腰へ。それに驚きビクリと身体を震わせると、ふふふと小さく笑われた。  もしかして、揶揄われているのだろうか。歩みを進めながらチラリと盗み見た司波さんの顔が、こちらを向いていて驚いてしまう。 「し、司波さん……?」 「着きましたよ」  施術室の扉が開かれると、ふわりと甘い香り。 「え?」 「リラックス効果のあるアロマを焚いてみました。匂いの好みが分からなかったので、とりあえずメジャーで好き嫌いの分かれなさそうな物から選んだのですが、大丈夫そうですか?」 「はい、大丈夫です。ありがとうございます」 「よかった。では、これに着替えて頂いて」  司波さんが俺に差し出したのは片手に収まるくらいの小さい物で、ビニールに包まれていて中は黒い。 「これは……?」 「服のままだとオイルが付いてしまいますので、こちらに着替えて下さい」 「着替えるって言っても……」  手の平に収まる程しかないコレに……? よく分かっていない俺を差し置いて、司波さんは「着替えはあちらで」と着替えスペースへと俺を案内しはじめる。 「あの……」 「女性だとスタッフが外に出て、お客様が施術台に寝て準備が出来たら声をかけて頂いたりするそうなのですが……」 「いえ、それは大丈夫です」 「分かりました。では、準備が済んだら出てきてくださいね」 「はい」  案内されるままに押し込まれた、そう広くはない簡易の着替えスペース。戸惑いながらも先程のやりとりを反芻する。 「えっと、とりあえずこれに着替えれば良いんだよな……」  手渡された物はビニールに包まれていたので、その外側の包装を剥がして、中の黒い物を取り出した。そのままパラリと広げてみる。 「これって……!?」  ペッラペラの黒いパンツ!? 素材も、なんだか布にしてはゴワゴワしていて履き心地が悪そうだ。本当に、これに着替えるのか? っていうか、マジでこれだけ……? もっとこう、Tシャツとかも……と思ってから、今日の施術がオイルマッサージであることを思い出す。 「そっか、オイルでビショビショになっちゃうもんな……」  とりあえず、着替え始めよう。  ネクタイを抜き取り、ワイシャツのボタンを一つ一つ外し、脱いで畳む。  微かに鳴る衣擦れの音がやけに大きく響くような音がして、なんだか生娘のように恥ずかしかった。続いてインナーも脱ごうとして、既に生地を押し上げている胸の突起に気付き溜息を吐く。  前までは、面倒だし洗い物も増えるからと着ない日の方が多かったインナーを、最近では毎日欠かさず着るようになった。  それもこれも、全てはこの敏感になってしまった乳首のせいだ。 「変じゃ、ないよね……?」  どうか目立っていませんようにと願いながらインナーも脱いで畳み、ワイシャツの上に重ねる。上を脱ぎ終えたら、今度はベルトを外してスラックスを脱ぐ。  ……慣れない場所で、それも布を一枚隔てた向こうには司波さんが居ることを思うと、下着を脱ぐのに少し勇気がいる。って、いやいや。司波さんは同性だぞ。なにをそんなに意識することがあるんだか……。ブンブンと頭を振ってから、気を取り直してスッと下着に手をかける。脱いだ下着をスラックスの下に隠すように入れてから、大雑把な友人を思い出した。  サウナや旅行先の温泉などで、特に何も気にすることなく一番上にドンと下着を置いていて、下に隠す俺に気付くと「そんなん気にするのか? 女みてー。なんか隠されると逆に気にならねえ?」と揶揄って見てこようとする少し意地悪な所もあるが、未だに遊びに誘ってくれる、数少ない友人だ。 「それで、これを穿くと……」  そっと足を通してみる。うう……やっぱりゴワゴワしているし、どうにも心許ない……。 「これで人前に……?」  いや、まあ人前といっても司波さんしか見ない訳だが……。でも駄目だ。やっぱりこれだけでは恥ずかしい! ち、乳首も勃っちゃってるし……!  俺は畳んで積んだ服の山からワイシャツを引っぱり出して、上に軽く羽織った。直ぐに脱ぐことになるだろうからボタンはせずに、あくまで羽織るだけ。  ……うん。それでも、紙パンツ一枚より全然良い。これで行こう。 「あの、準備出来ました」  カーテンを開けて出ていくと、司波さんがカルテから顔を上げた。 「はい。じゃあ………………ゴホン。こちらに来て下さい」  ……ん? なんだろう。今、なんだか不自然な間がなかっただろうか? 「はい」  疑問に思いながらも、促されるまま施術台に座る。 「説明不足ですみません。紙パンツ一枚の状態で出てきてもらって大丈夫だったんですよ」 「いえ、あの、こちらこそすみません! そうだろうなって思ったんですけど、あの、俺、恥ずかしくて……」  俯いた視界には、やはりぷっくりと存在を主張している乳首……。おそらく今の俺は、そこだけではなく顔や耳も赤くなっていることだろう。 「そうなんですね。でも、羽織っている方が逆に色……いや、ごめんなさい。なんでもないです。えっと、オイルのご説明をさせて頂きますね」 「はい」  司波さんは、一体なんと言おうとしていたのだろう……。逆に色……?  「色味が多くてゴチャつきます」とか? そんな女子のコーディネートに対するワンポイントアドバイスみたいなこと言うか……? 「オイルはお客様のお好みで選んで頂けます」 「へぇー凄いですね」 「爽やかな柑橘系、フローラルなローズ、スパイシーなオリエンタル系、リラックスするラベンダー、エキゾチックなイランイラン……今回はこの五種類をご用意させて頂きました」 「沢山あって迷っちゃうな……」 「どうぞ、一つ一つ匂いを確認してみてください」  そう言われて、テスター用の小瓶の並んだトレーが前に差し出された。とりあえず右手側から順に嗅いでみる。  どれも良い匂いだが、どれにするかと言われると悩んでしまう。特に苦手な匂いもないので正直どれでも良いが……。  俺って本当に優柔不断な奴だよな。こういう所も自分の直したいところの一つだった。 「どれも良い匂いで迷っちゃいますね……。えっと、司波さんのオススメとかってありますか?」 「そうですね……もしも、最後に嗅いでいたイランイランの香りが苦手でないのでしたら、私はそれがオススメですかね。ストレスや緊張を緩和してくれますし、誘眠作用があるのでこの時間にピッタリかと」 「なるほど。匂いによって効能とかも違うんですね……。じゃあ、その司波さんオススメのやつにします」 「かしこまりました。では、ワイシャツを脱いでうつ伏せになって頂けますか?」 「あ、えっと、はい……」  司波さんからの視線を感じながら、スルリとワイシャツを肩から滑らせる。たったそれだけの事なのに、妙に心臓が煩い。駄目だ、動揺するな……! 「……ワイシャツはこちらへ」  差し出された手にワイシャツを預ける。ピンと勃ち上がった乳首を見られる前に、素早くベッドの上に伏せた。身体の上にふわりと大きなバスタオルがかけられてほっとした。 「触れない場所は冷えないように、タオルをかけます。施術時に捲ったりずらしたりしますからね。では、はじめていきます」 「はい。お願いします」 「末端……足の方からリンパを流していきます。触りますね」 「は、はい」  声がかかってから、少し間が開く。にちゅにちゅと少しもったりした水音がして、ぬるりと温かいものが左の足先に触れた。 「うあっ!?」  声をかけて貰っていたのに、驚いてひっくり返ったような情けない声が出てしまい、慌てて右手で口を塞ぐ。  足先に触れた手はそのまま足の指の間に入り込み、手と足で恋人繋ぎでもしているかのようだ。手の指の股と足の指の股を擦り合わせるようにスリスリと動き、オイルのぬるぬるとした感覚も相まって、くすぐったさが増す。 「あっ…、待って! 待って下さいっ」 「ああ、相馬さんくすぐったがりでしたもんね。すみません。ゆっくりやりますね」  その言葉を合図に動きが変わって、今度はじっくりぬっぽりと舐るようなもどかしさ。そのままスルスルと足の裏と甲にもオイルが塗り広げられて、司波さんの手が動く度に、身体がヒクヒクと痙攣のように震えた。 「んッ、ぅ……!」 「痛くないですか?」  足つぼのように足の裏をグッグッと押される。 「痛気持ちい、です」 「なら良かった」  司波さん、今どんな顔をしているんだろう。  ポカポカで温かくて大きい手が、少しずつ上に上がってくる。ふくらはぎにオイルを塗り広げて、リンパを流すように器用に動く。膝の裏が念入りにグリグリと押された。  あ、この辺はそんなにくすぐったくないかも……。ほっと安心して、ふうと息を吐き出す。次に息を吸い込むと、ふわりと良い香り。そうだ。これ、今日のオイルの匂いだ。イランイランって言ってたっけ……? そう、油断したのが良くなかった。 「あ、んッ!?」  いつの間にか上ってきていた大きい手が、俺の太ももの内側に触れた。大きく声が漏れて、身体が跳ねる。 「……痛かったですか?」 「い、痛くないです」 「痛かったら教えて下さいね」 「はい……ッ、ふ、あッ」  再び同じ辺りを手が掠めていく。こんな所、人に触られたことなかったから……弱いなんて知らなかった。 「すみません、タオルをズラしますね。下着も少し捲ります」 「えっ!?」  黒い紙製の下着が、足の付け根の方からクルクルと捲り上げられて、Tバックのようにされていく。 「なっ……!?」 「あぁ、初めてだとビックリしますかね? 皆さんこうさせて貰うんですが……」 「す、すみません。大丈夫です!」  そうなんだ。びっくりした……。なんだか如何わしいことでもされるのかと思ってしまった。いやいや、なんでこんな抜群のイケメンが、こんな冴えないただのリーマンにわざわざそんなことするんだよ。そんな訳ないだろう……。 「ここにもオイル、塗りますね」 「はい……」  おしりは別にくすぐったくない。……はずだった。 「……っ! んンッ!?」  まるで胸でも揉むように、下から上へと尻たぶを揉み上げる手。その親指が時折、下着の布越しに肛門や、肛門と股間の間を掠めていくと、どうしようもなく身体が跳ねる。 「お尻もたまにマッサージした方が良いですよ。座り仕事してるなら特に」 「ふぁ、あ、イっ」 「あ、こことかどうです? 気持ち良いですか?」 「ひ……ッ!?」  内腿の、本当の付け根。司波さんの手が股間に触れそうなギリギリの辺りをグリグリと押した。 「んン、んーっ!? ……ッう、や、ああっ、ッ!」  直接触れられて無いのに、股間がどんどんと熱を持って、ムクムクと頭をもたげはじめた。だめだ、気付かれちゃう……! 「きもちく、ない! きもちくないですっ!」 「え? そうですか……? ここ、結構凝ってそうなんだけどな……」 「あ、ン! やだ、それ、やだからぁ!」  俺の言葉を聞いた司波さんは、手を止めるどころか更に念入りにその周囲も揉み解すように押してくる。  だめ、だめだ! そんなの……!  硬く勃起し始めた股間がベッドに擦れる快楽を逃がすように腰を浮かせると、胸に掛かる負担が増えて、元々赤く腫れてしまっていた乳首に刺激がいく。 「ふあぁっ!」 「うわ、絶景……」 「ん、やぁッ」 「……分かりました。ここは一旦やめておきますね」 「ふぁ」  ムズムズと消化不良な股間は、早く楽にしてくれと訴えてくる。しかし、人がいる手前抜くことも出来ず、どうにかしようとヘコヘコ揺らした腰は、まるで静かな床オナニーのように情けない。 「こらこら、動かないでください」 「だって……!」 「続けますよ」  尻からひいた手が、身体にかかっていたタオルを足の方へ移して、今度は背中にオイルを塗っていく。 「―ッ……ぁ!」  敏感になってしまった身体は、背中を撫でる手からすらも快楽を拾うようになってしまったらしい。 「も、やだぁ……」 「泣かないで。大丈夫ですから。気持ち良いのは当たり前だから、こわがらなくて平気」 「うぅ……」  つつつ……と背中を指が伝っていくと、何故だかそれだけで射精しそうになる。どうにか快楽を逃そうと再び浮かした腰を咎められるように、腰にグッグッと圧を掛けられた。 「あっ、あッ……!」 「いっぱい声出していいよ」 「きも、ち」 「うん。きもちいいね」  いつの間にか左手が恋人繋ぎのように握られていて、足にされたようにニュルニュルと動かされる。 「ふぁ、ぅ……っ」 「ここも気持ちいの? すごいね。もう全身性感帯だ」 「ちがう、」 「ちがうの?」 「あ、ッあ! い、いじわるっ」 「……」  黙ってしまった司波さんに、怒らせただろうかと顔色を窺うと、顔は笑っているが目が笑っていなかった。でも、なんか少し楽しそう……? 「じゃあ、今度は前……やりましょうか」 「えっ……」  前ってことは、向きを変えるってことで……。 「むりむり! むりです!」 「何故です?」 「だ、だって……!」  もう俺の股間は臨戦態勢で、完勃ちしているからです……! 乳首だって、明らかに来た時よりも腫れあがって赤くなってるし……! でも、そんなこと言える筈がない。 「あ、そうだ! トイレ! トイレに行かせて貰えませんか!?」 「勃起なら気にしませんよ」 「…………へ?」 「だから、勃起なら気にしません。気持ち良くなって勃ってしまうお客様は稀にいらっしゃいますから。職業柄気にしませんので大丈夫ですよ。抜くのは出来ませんけど」 「えっと……」 「ほら、早く向きを変えてください」 「は、はい」  ……なんだろう。なんか司波さんの俺への扱い、段々雑になってきてないか……? いや、いいんだけど……。  大人しく向きを変えると、やはり例の簡易の下着を押し上げている股間。  司波さんは言葉通り気にする様子もなく、手に追加のオイルを付けている。俺の頭側にいるから、そんなによく見えていないのだろうか。……そうであってくれと願いながら、俺は大人しくベッドに仰向けで寝そべった。  足元でくしゃくしゃになっていたバスタオルをこっそり自分の股間を隠すようにかけたが、それは司波さんの手によって乱雑に放り投げられる。……え? なんで? 「では、首回りのリンパを流します」 「は、はい」  ヌチュッと再びオイルを纏った温かい手が触れてくる。首の付け根、耳の下辺りからだんだん下へと流すように下がってくる。 「うぅ……」 「ここもくすぐったいんですか?」 「首は元々弱くて、苦手で……」 「へぇ……その割には、俺の手に擦り寄ってきてるけど」 「えっ!?」  そう言われて初めて、司波さんの手に甘えるように顔を擦り寄せている自分に気が付いた。 「ち、ちがう!」 「別にいいのに……」  そのまま優しくフェイスラインをなぞられて、ぞくぞくと背中に甘い痺れが走る。 「っ……あ」 「もっと気持ち良いこと、しましょうね……?」 「や、ッあ」  額にかかっていた前髪がサラリとはらわれる。……キス、されるかと思った。そして、されなかったことを少し残念に思っている自分に戸惑う。  そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、再び動き出した手が鎖骨の窪みをなぞっていった。 「ひっ……!」 「鎖骨、綺麗ですね」 「うぅ……あッ、あ」  そんなことないと言葉を返したいのに、口から零れてくるのは意味のない吐息のような母音だけ。  うるうるとした視界で見上げる天井には、うつ伏せの時には見えなかった司波さんが見える。施術している箇所を見ながらも、時折観察するように俺の表情を見てきた。それがいやだ。……絶対変な顔してる。 「や、っぁ、……! みるなぁ」  両手をクロスして顔を隠そうとすると、「こら」と優しく咎められた。 「おれっ……へんなかお、してる」 「してないですよ。かわいい」 「かわいくない……っ!」 「また泣いちゃった……。そういえば、出会った時も泣いてましたね。相馬さんって泣き虫?」 「わかんないっ」 「あぁ、ごめんね。……お詫びに、普段しないところも触ってあげるから。ね、許してくれる?」 「へ?」  ――にゅるん 「あッ……!?」 「すごい、もうコリコリだ」 「ふあ、ぁっ!」  オイルを纏った手が、手のひらで乳首を押しつぶすように滑ってきた。胸全体を揉み解すようにしながら、特に突起へと圧をかけてくる。 「ッ!? あ! 、ああ、ん、ンっ!」  ビクビクと身体が跳ねる。今まで緩く与えられてきた快楽。それが、急に直接的なものに変わって、いっそ暴力のようだ。指先で弾くようにピンピンと刺激された。 「ん、ンン、っ!?」  ……イってしまうかと思った。 「腰、浮いてますね。かわいい」 「やッ、やだ、これっ…あ、ン! これイヤぁ!」 「身体は嫌って言ってないみたいだけど」 「やだやだ、やだぁ…っ」 「あれ、駄々っ子みたいになっちゃった。俺の手に胸ぐいぐい押し付けてるくせに」 「違う…ちがうのにぃ……」  どうにか止めようと伸ばした腕は力が入らず、司波さんの腕に甘く絡みついただけで、気持ち良さでのけ反った胸は、もっと触って! と強請って押し付けるように見えてしまうらしい。 「凄いね。乳首だけでイけちゃうんじゃないですか?」 「むり…やっ、あアッ、……っむりだからぁ、っ!」  くにくにと両方の胸の突起を摘ままれて、ぎゅっと力を込められたかと思うと、オイルで滑ってツルンと放される。 「ふあっ、ぁ、」 「かわいい。いつも自分で弄ってるの?」 「っ、だって、アンタのせいで……っ」 「え?」 「んっ…! 前は、こんなじゃ、なかったのにっ……!」  散々弄られてオイルを塗りたくられた乳首は、部屋の蛍光灯でテラテラと厭らしく目立っていた。そこは充血して赤くぽってりと腫れあがり、まるで自分の胸じゃないみたいで……。 「ッあ、アンタに触られてから、おかしくなったんだ!」 「……へぇ」 「もう、ちんこだけじゃ、ア、んっ! イけないっ……からぁ」 「……」 「あッ!? ん、やっ、なに!?」  叱られるみたいにギュウウと根元から乳首を摘まみ上げられて、思わずのけ反る。 「じゃあ、責任とらなきゃね」 「はあ……?」  ――ぱくり 「ひぅッ!?」  乳首が、食べられた。 「やっ、あ、ンンッ! 何して……!?」 「ふぉえふぁ」 「そこでしゃべるなぁっ!」  ちゅっちゅっとキスするようにと吸い付いたかと思えば、舌全体を使ってゾリゾリと舐め上げられる。軽く歯を立てて甘噛みしてきたかと思えば、舌先でチロチロと舐められる。  口を付けているのと反対の方の乳首も、似たような刺激を指で絶えず与えられて、目の前がチカチカしてきた。 「んーーっ……!」 「おっと……」 「な、んで」 「すごい。本当に乳首だけでイけそうじゃないですか」 「イきた、っ……イかせて」  司波さんは嬉しそうにニッコリ笑い、穿いていたスラックスの前を寛げながら、ベッドへと乗り上げてくる。 「うん。一緒にイこうね」 「えっ……!?」  そのまま下着をズリ下げると、ブルンと勢いよく赤黒い物が飛び出す。 「ヒッ……」  ……お、大きい。根元が太くて、長さもあって、カリ高で、どう考えても俺の股間に付いているものと同じ名称とは思えないブツだった。色も、使い込まれているのか色素が沈着していてグロテスク。血管まで浮き上がっている。 「でっか……」 「そう? でも、そうですね……。相馬さんのよりは大きいかも。…………あ、その顔カワイイ」  何故か俺のムカついた表情に反応して、ピクリと更に上を向いたその股間に震えあがった。 「ホ、ホモなの?」 「え? いや、今まで男性を相手にしたことはないですね」 「え!? そんなに勃ってるのに!?」 「ええ。なので、相馬さんにも、俺を狂わせた責任……取って欲しいな」  スリッと、その規格外のブツが俺のモノに擦りつけられた。 「むりむりむり!」 「大丈夫。相馬さんならすぐ気持ち良くなれるよ」 「さけちゃう」 「はは、流石に今日は挿れないって……」  司波さんは自分の手にオイルを付け足すと、そのままグロテスクな股間に塗りたくった。続けて俺の下着に手がかけられ、抵抗虚しくスルリと容易く抜き取ると、ベッドの外へと消えていく。 「うつ伏せになって」 「むり……」 「ほら、仰向けのままだと、また沢山乳首弄られちゃうよ?」 「ンッ! うぅ……」  人差し指の背でスリスリと乳首を触られて、逃げるようにうつ伏せになった。 「うん、いい子……そのまま腰を高くあげて……」  誘導するように下腹部に手が差し込まれて、ぐっと上に押される。 「あ、っ……!」 「なに? これだけで気持ち良くなっちゃえるの? ほんと、才能あるよ」  クックッと楽しそうに笑う声が背後で聞こえた。あぁ、俺の優しかった司波さんは何処へ……。  ぬるっとしたものが尻の谷間を何度か往復して、ぞわぞわとした感覚が背筋を上ってくる。やがて、焼けそうに熱くて大きいものが、閉じた太腿の間にあてがわれ、にゅぷにゅぷと割って入ってきた。 「あぇ……」  つぷんと先端が抜けたが、再び引っ込む。  太腿の感触をあじわうかのように、つぷつぷと前後されると、先ほど見た、大きく張り出したカリ首の段差を思い出してしまう。あれが引っ掛かって、太腿の肉が動かされているんだ……。あれで中を掻き回されたら気持ちいいのかな……。  ひくっと尻が疼く。そんなところ、弄ったこともないのに……。 「あー……相馬さんの太腿可愛い……。本当は、初めて会った日からこうして触りたかったんです」  ついでのように尻の窄まりを親指で刺激される。オイルでぬるついた指はそのまま中へと入ってしまいそうだった。くるくるとフチをなぞられる。 「あっ、や、そこは……っ」 「うん。まだね」  まだ、ということは、いつかするつもりなのか……? 「今日はこっち」  ずちゅっと今までよりも大きく腰が動かされて、つぷんと出てきた熱い塊が、俺の股間の裏筋に触れた。 「ンんっ!? あ、っ……! や、あッ!」 「相馬さん、もっと肉付けましょう。今度ご飯でも食べに行こうか……」 「ふあ、っあ!」  俺ばっかり翻弄されて、余裕で喋っているコイツがムカつく……! 太腿にギュッと力を入れると、後ろの男が息をつめたのが分かって少しスカッとした。……しかし。 「あっ、ン!?」 「……あんまり可愛いことしないで? 優しくしたいから」  もう既に優しくないくせに! そう言いたいのに、口からはもう喘ぎ声しか出ないし、どうやら仕返しは逆効果になってしまったらしい。 「相馬さんも、そろそろイきたいでしょ?」 「んっ、ん!」  こくこくと頷くと、司波さんが後ろから覆いかぶさってきて、少し荒々しく頭を撫でられる。 「ひぁ、っ……!」 「ああ、こっちだけじゃイけないんでしたっけ?」 「へ?」 「胸も弄らないとイけないって、言ってましたよね」 「ッんああっ!!」  身体を起こされ膝立ちにさせられて、不意な胸への刺激。それだけで達してしまいそうになった。 「はは、ほんと最高」 「や、やめ、っ……!」  耳元で喋られて、熱い吐息が耳にかかる。もうそれすらも快感で、もう自分が何処で感じているのか分からなくなってしまった。全身あちこち気持ち良い。触れられたところ、全部、気持ち良くて……。 「んんっ」  声の聞こえる方へ顔を向けたら、司波さんの顔があったから、訳も分からぬままに自分から唇を寄せた。チュッと軽いリップ音。……? あれ、俺、今なにして……? 「ん、ッふ、ぁ」 「え……?」 「もっと、ほし、い……」 「……勘弁して」  噛みつかれるように口を塞がれて、熱い舌がねじ込まれる。 「んむ、っう……!」  口の中を隈なく探られるように舐めまわされて、酸欠で溺れそうだ。  下半身の動きも早くなって、遠くから、近くから……粘着質な水音が絶えず聞こえた。  絡め合っていた舌をじゅうっと吸い出されて、混ざり合った唾液が送り込まれたが、上手く飲み込めずに口端を伝っていって、それが熱い舌に舐めとられる。ペロペロと満足いくまで舐めた舌は、また俺の口の中に。 「んっ、ん、」  ギッシギッシと施術台の軋む音。突き上げるような動きで、俺よりも大きいモノが俺のモノも擦り上げていく。 「や、ふぁ、……っあ! あ、ンっ」 「もっと太腿ぎゅって出来る?」 「む、むりぃっ、アッ! あ、んやぁッ…! できな、い…」  気持ち良さに力が抜けて、足が開いていく。今は素股から程遠く、司波さんは俺の股間と肛門の間の皮膚を擦り上げているだけになっていた。 「……ここ握ってて」  施術台についていた俺の手に司波さんの手が触れて、導かれたのはお互いが擦れ合っているその場所で、オイルともどちらの先走りとも分からない液体でべしょべしょになっていた。 「やッ、あ! むり、っ……! こわいっ」 「こわくない。ほら、俺はこっち弄らないといけないから」  ぎゅっと両胸の乳首の先が引っ張られる。 「あっ、ン! や、ぁッ」 「こら、あんまり寄りかかられると動けないよ」  再び前かがみになるのを促されるように圧をかけられる。それすらも気持ち良くなって、困って彼の顔に擦り寄った。 「できない……っ、どっちもやってぇ……」 「……っ」  途端に乱暴に口付けられて、いつの間にか身体の向きが変わっていた。司波さんの太腿の上に乗るような形の対面座位。  お互いの勃ったものが触れ合っていて、司波さんはそれを俺の手ごと握る。今までとはまた違った感覚。その初めての刺激に、俺はたまらず司波さんの首に空いている腕を回して首筋に擦り寄る。 「ッくそ……!」  その余裕のない呟きに、何故だか俺まで動揺してしまう。ぎゅうっと胸が苦しくなって、更に身体は甘く疼く。 「ッア! や、ぁ、…ちくび、も、さわって、ほし…い、ァッ!」 「触るよ。触るから、これ以上煽らないで……っ!」 「んっ、んぅ……」  口と口が触れていないと呼吸が出来ないみたいに、直ぐに唇が塞がれた。  片手で二人のものをいっしょくたに抜きながら、空いている手で俺の胸を弄る。手探りで突起を見つけると、感触を確かめるようにコリコリと摘まんでから、ピンッピンッと指で弾かれた。ビクビクと腰が震える。  気持ち良さにぼーっとする頭に、ぐちゅっぐちゅっと粘っこい音、ぴちゃぴちゃと脳に響くような水音……とにかく色んな音が混ざって聞こえた。  しかし、そんな中でも不思議と鮮明に聞こえてくる「かわいい」「気持ちいい」「ずっとこうしていたい」「……好きだ」という声。  俺も、いつの間にか戯言のように「おれも」「おれも、すき」という言葉を溢していた。 「あッ、イく…! イきそっ、…ふ、ぁ」  のけ反って喉を晒してはくはくと息をする。苦しい。けど気持ちくて。晒した喉に唇が寄せられ、吸い上げられた。 「んンッ!」  そのままどんどん下がっていった唇は、散々弄られ腫れあがった突起にキスをする。 「あ! やっ、あぁッ…!」  舌先で何度も嬲られ、呼応するように下半身を抜く手も早くなる。握らされている股間が、触れ合ったソコが熱くて、硬くて、ビクビクと震えていた。もうお互い限界が近い。俺の手を覆う司波さんの手に更に力が込められる。堪らず胸にある司波さんの頭を抱え込んだ。 「ア、だめっ、まって…! あぅ、ンんっ……イきそ、」 「いいよ、イって。一緒にイこ」  急にグリッと抉るように鈴口を刺激される。同時に乳首が甘噛みされた。 「…っあ、やっ、! もっ、イっちゃ……――!」  ビュクッビュクッと勢いよく精液を吐き出すと、ほぼ同時に司波さんも射精して、飛び散った熱い精液が腹を汚す。 「んっ、んぅ…」  息継ぐ間もなく唇が塞がれた。既に散々舐めつくされた口内。弱い所を重点的に。酸素を奪われ、唾液で溺れそうになりながら、はふはふと必死に酸素を求めて口を開く。しかし与えられるのは大きな舌で、思い出したように鼻で息をし始める。涙で潤んだ視界のなかで、目の前の瞳は俺だけを見つめていて、とろりと溶けそうな温度をしていた。  ◇ 「あの、大丈夫ですか?」  かけられた声に、そちらを見上げる。穏やかなのに不思議と通る綺麗な声。 「……大丈夫じゃないです」  すっかり掠れた情けない声に、へらりと笑う目の前のマッサージ師。 「無理をさせてしまいましたね……」  いつだったか、コイツとそんなやりとりをしたような気がした。

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