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第21話

第21話 痛い、足が痛い。何このヒールって靴? 世の中の女性達はこんなものを履いて一日中歩けるわけ? すごいよ。それこそノーBル賞ものの快挙だよ。 「蒼、すごく綺麗です」 「うるさい!」 朝から欲情しっぱなしの要の靴をヒールで踏んでやる。 しかし、その痛みですら嬉しそうにするこいつはいかれている。 今回のドレスは京音大の学生達のチームが一丸となってデザインから担当してくれたものだ。 彼らの力のこもったドレスのプレゼンテーションに、俺は仕方なく、着ることを了承した。 「灼熱の愛に焼かれた氷の女王」というテーマらしく、真っ赤なドレスだ。 ヒールも赤、唇も真っ赤だ。 メイクも終わり、鏡の前に立った時、自分で言うのもなんだが、「すげー美人がいる」と思ってしまった。 俺の黒い髪に赤がよく映えている。 「蒼、離れないでください」 俺たちは今、授賞式を終えて、晩餐会の会場へ来ている。 授賞式は燕尾服で出席することを要が許してくれて本当によかった。 授賞式までドレスで参加しろと言われていたら、俺は飛行機に乗らなかっただろう。 緊張感漂うムードとは変わって、晩餐会は洒落も許されるなごやかなムードだ。 そのせいか、どこどこの皇太子なんかが、「ドクター月島!とても美しいね!」みたいな感じで声をかけてくることもしばしばだ。 それはいいのだが、そのたびに、要が腰をぐいとひっぱって体を寄せてくるのが問題だった。 これは俺のものだと主張するようなあからさまな態度に、婦人たちからクスクスと笑いをとってしまっている。 「早く帰りたい・・・・」 食事も終わって、ダンスも無事に終わり、そろそろ閉会式だろう。 ちなみに、俺たちのダンスに会場がこれまでにない熱気に包まれたのは言うまでもない。 俺の顔も真っ赤だったかもしれないけど。 「あと、インタビュー受けて終わりですから」 🔷 閉会式が終わり、外にでると、俺たち用の取材のための場所が作られていた。 他の受賞者よりも数段に記者が多い。まあ、ネタが多いからね・・・・ 研究の過程や、成功の秘訣、たくさんの質問が飛び、要が答える。 俺はその横で、さも帰りたそうに不貞腐れ、足の痛みをこらえている。 女装させられた上に、つま先立ちの状態でほぼ半日ほどこらえているのだから、不機嫌でも仕方ないだろう。やばい、この靴ほんとやばい。 「お二人は、婚姻関係を結んでいるというのは、事実でしょうか?」 あー来た。研究に関する質問だけだとお願いしてあるはずなのに、やっぱりプライベートにも突っ込んでくる・・・・。まったく、俺たちが結婚していようがいまいが、どうでもいいじゃないか。 足の痛みと質問に対する苛立たしさで、地面を蹴った。 しかし、ヒールという未知の履物を履いていることを失念していたために、俺は足をひねってころびそうになり、気づいた要がとっさに俺の腰を抱いて受け止めてくれた。 「わ、わるい・・・」 ん?要の距離が離れていかない。 げ、こいつ、さっきまで隠していた性欲が顔に出ちゃってる。 「お・・・おい・・・」 要の顔が近づいてくる。 まずい、口づけしようとしている。ここは、記者会見場だってことが飛んでしまっているのか? 慌てて近づいてくる要の胸板を押しやる。 その瞬間、要の顔から笑みが消え、失望の色が浮かび始める。 どうしよう・・・・ 「ダメだ、こんな顔させちゃ」という思いと、この後のチアパム視察の旅程が脳裏をよぎる。 受賞式が終わった後、そのまま吉沢助教授と合流し、発展途上国視察に行くことになっている。 要とのキスシーンが、メディアで流れた状態で顔を出したらどうなるのだろうか・・・ 考えている間にも、要が離れていく。 要が離れていく気配に、恐怖が走る。 嫌だ、離れないで・・・・もう離れたくない。要がいない日常なんて、二度とごめんだ。 気が付くと、俺は要の首に手を回していた。 驚く要の表情に自分の顔を近づけていく。 そんな顔しないでくれ。 嫌だ。 離れたくない。 嫌だ。 あの日、強引に俺を抱いた要の悲しそうな表情が蘇る。 俺が要に口づけると、周囲からどよめきがおき、シャッターが無数に押された。 唇を離して、はっとする。 俺は・・・俺は何をしているんだ! 増えていくカメラが視界に入ると、俺は会見場からダッシュで逃げ出した。 🔷 ホテルの部屋にたどり着くと、ドサッとドレスのままベッドに横たわった。 「疲れた・・・」 「お疲れ様です」 要を会見場に置き去りにしたつもりだったが、ヒールの靴ではうまく走れず、晩餐会場のタクシー乗り場で追いつかれ、一緒に帰ってきた。 「蒼、足見せてください」 「ん?」 靴を脱ぐと、要が床に膝をつけて俺の足を撫でる。 「靴擦れしちゃってますね」 「それはそうだろ、この拷問靴じゃあ」 「シャワー浴びたら、絆創膏はりましょう」 「うん」 要がそう言いながら、俺の上に覆いかぶさってくる。 「要は、蝶ネクタイ、似合わないな」 「そうですか?可愛いって学生の子たち言ってくれましたけど、似合わないなら外してください。案外苦しいんです。これも」 「仕方ないな」 俺の上で、肘で体を支えている要の首から蝶ネクタイを外してやる。 すこし外れたボタンから見える鎖骨が色っぽい。 「蒼・・・綺麗です」 要の口づけがふってくる。一回ではもちろん済まず、何度も何度も口内を犯される。 「嬉しかったです。カメラの前で俺から逃げないでいてくれて」 「あれは・・・その・・・おまえが離れていくのに、耐えられなくて・・・・」 俺の言葉に要の目が開かれる。 恥ずかしくて、慌てて手で顔を隠す。 「蒼、たまらない」 要の手がドレスに入ってくる。 「まった、ドレス、汚しちゃうだろ」 「大丈夫です。買い取ってありますし」 「でも、学生の子たち、冬のファッションショーにも出すって」 「二着作ってもらったので、大丈夫です」 「は?二着?」 「はい。一着は、汚しちゃう予定だったので・・・・」 「え?」 「だって、せっかくの女装ですよ?女装した蒼を犯せるのなんて、これっきりかもしれませんし」 「でたな・・・確信犯め!最初から、これが狙いか!女装した俺とやるのが目的だったんだな!」 「もちろんですよ。ノーBル賞とるために、医療業界へ働きかけたのは大正解でしたね」 「えぇ?そっから?そこからお前の計画なわけ?あっ!それでおまえ、銀杏の木の性転換を研究しようって言ってきたのか!」 「あは♡」 「怖いよ!おまえ、女装した俺とセックスするために、ノーBル賞取るように仕向けたわけ?」 「はい」 「はい、じゃねぇよ!毎回、毎回・・・・もう・・・・・かなわないよ・・・おまえには・・・・」 「あぁ、やっと抱ける。今日は朝から一日中、ドレス姿の蒼を抱くことしか頭になかったです。蒼、どんな風に抱きましょうか?まずは正常位で、その次は立って、その次は後ろから、その次は・・・・あ、カメラもセットしないと」 「やめろ!言葉にするな!」 怖い、怖すぎる。 世間の偏見よりも、カメラの前でキスすることよりも、俺が怖いのは、目の前にいるこいつだ。 「おれは、お前が一番怖い!」 「蒼、愛してます!」 ~おしまい~ <あとがき> ここまで読んでいただきありがとうございました。 現在、「俺はお前が一番怖い2」を執筆中です。 そちらも楽しんでいただけましたら嬉しいです。

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