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第3話
顎を少し上に持ち上げると、
大きな、大きな桜の木が立っていた。
身体を起こして、
改めてその桜の木を見上げた。
この光景をどこかで見たことがあるような気がする。
麗らかな春の陽気と、
青々と一面に生い茂る芝生。
その先にしっかりと根を張る、大きな桜の木。
そして、その太い幹の根元には。
「あれは何だ…?」
目を凝らしてみると、
全体を白い布らしきもので包まれた
大きな塊が見える。
ゆっくりと立ち上がり、
塊のすぐ傍まで近寄ってみた。
足元が裸足だったことに気が付き、
歩くたびに芝生に足の裏をくすぐられる。
身体を屈めてそっと白い布を掴み持ち上げると、
中から横たわる人が姿を現した。
死体か。
急に恐ろしくなって、
勢いよく後ろに後ずさった。
高鳴る胸の鼓動が再び静まるのを待って、
もう一度傍に近寄る。
死体と思わしき人物の顔は
薄茶色の長い髪に覆われ、
表情を確かめることが出来なかった。
その長い髪に指を掛けそうっと持ち上げると、
しっかりと閉じられた瞼が見える。
瞼は、小刻みに揺れていた。
死体ではなかったようだ。
夢でも見ているのか。
「おい。おい。」
念のため、軽く肩を揺らして声を掛けた。
反応がない。
途端に、鼻がむずむずしてきた。
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