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第4話
春の景色に似つかわしくないような、
野性的なくしゃみを放つ。
何で、こんな時に。
すると、揺らしていた肩が微かに動いた。
小さく呻くような声が聞こえてきたかと思うと、
顔の周りで絡まる薄茶色の長い髪を掌で掻きむしるように、かき分け始めた。
前髪に手を添えて持ち上げるのを手伝ってやると、
そこでようやく表情をうかがい知ることが出来た。
髪と同じ色の長い睫。
ビー玉を埋め込んだような、
透き通った青い瞳。
風貌からして、日本人ではないようだった。
桜を見に来たついでに、ここで寝そべったまま眠りについただけなのかもしれない。
しばらく顔を覗き込んでいると、
視線をこちらに向けられた。
青々とした瞳は、心の奥底まで透かし見るような清らかさが見て取れる。
吸い込まれるように見つめていると、
ふと目を細められた。
「…すごい、くしゃみ」
「…すまない」
「…ひるねしてた、だけなのに…」
話し掛けようとしたが、
それ以上は叶わなかった。
突然吹き上がる風の音とともに無数の桜の花びらが視界を覆い、辺り一面が真っ白になる。
「…やっぱり夢か」
聞き覚えのあるアラーム音が、
耳元で騒がしく鳴り響いている。
呼び鈴。なんと腹立たしい。
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