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第48話

「頼むから。頼むから、今日は出てこないでくれ…お願いします」 ベッドの上で仰向けになった龍司は、 サクラを自分の額に押し当て、祈った。 3月上旬。まだ肌寒い日が続いている。 手の中でうずくまるサクラの身体の温もりを味わいながら、 静かに天井を仰ぎ見ていた。 龍司は一つ大きな息を吐くとベッドから立ち上がり、 リビングの奥の窓辺にある白いゲージにサクラを寝かせ、またベッドに戻った。 今日こそは大丈夫だ。 同じことは起きない。 大丈夫だ。 そう言い聞かせて、龍司は静かに目を閉じた。 -夢か、幻か- 強い強い、風の音が聞こえる。 この音を聞いてしまったらもう、 諦めるしかなかった。 ここがどこなのか分からない。 巻き上げられた髪をかき分け、 辺りを見回してみる。 強い風とは対照的な柔らかな陽の光に、 身体を優しく包まれる。 光の白さに目を細めていると、 またいつものように、”あの声”が聞こえてくる。 「ジ…リュウジ……リュウジ…」 龍司は目を見開き、もう一度辺りを見回した。 風の音が強すぎて、どこから声がしているのか分からない。 ただはっきりと、自分の名前を呼んでいることは分かる。 「…どこにいるんだ…何だよ、どこにいるんだよ!」 叫んだ声は、龍司の身体ごと大きな温もりに包まれた。

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