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第56話
次に風の音を耳にした時、
龍司の身体は柔らかい芝生の上に横たわっていた。
着ていたセーターはみぞおちまで捲り上げられ、例の男の顔が近づいてくる。
男はいつの間にか龍司の身体の上を跨るように膝立ちになっていた。
男は自分の膝で龍司の膝を割り開いた。
先に起こることを察知してか、龍司は慌てて
覆い被さってくる男の胸を手で押し返したが、
逆に男にその手を掴まれた。
男の表情が見えない分、掴まれた手の力の強さが恐ろしい。
「リュウジ…どこにいる?」
「また…またそれかよ…ここにいるって…っ…」
言い終える前に、
滑りを帯びた舌らしきものが
龍司の口の中に入ってきた。
男の顔はまだ下まつげまでしか伺うことは出来ず、
それでも何とかその顔を目に焼き付けようと必死に目を開いた。
そんなことに気を取られている間に、
男の手は龍司の膝の間に伸びていた。
「ぁ…嘘だ…うそ……」
こんな時に限って、身体に力が入らなくなった。
全く見知らぬ男に、腰元を触られている。
大きく骨ばった掌をそこに覆うように重ねられると
龍司の膝が揺れた。
「おまえにあいたい。あいたい…おまえをさがしてる…」
「ぁ………」
熱く湿った舌で口内を弄ばれながら
腹の下に受ける刺激に、
次第に意識が遠くなる。
顔を見なければいけないのに。
聞かなきゃいけないことがあるのに。
「………おまえがすきだ………」
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