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第57話

「………勝手な解釈だけど、俺はサクラが松島さんに拾われたことを伝えに来たんだと思ってる。じゃなきゃあんな毎晩毎晩…」 遠くで聞こえていた低い声が、 ソファに座っている龍司のすぐそばでこだまする。 目の前で静かに話す男の顔を見て、 ここが現実の世界だということを思い出した。 「ちょっと。ちょっと…頭を整理させて下さい」 龍司は男の言葉を遮った。 男の名前は羽鳥孝之。 サクラを拾った桜の木の下で、偶然出会った。 初めはサクラを捨てた張本人だと思ってたが、違っていた。 一度はサクラを連れて帰るつもりでいたが、 事情があってそうもいかなかったようだ。 孝之の夢の中には一ヶ月ほど前から毎晩のように男が現れたのだという。 その男は、”龍司”の顔をしていたのだとか。 「名前を教えて欲しいとか、どこにいるんだとか、色々聞いたけど何も分からなくて。だから、ただの妄想だと思ってたんです」 龍司は吹き出す汗と高まる鼓動に身体を震わせた。 一体、孝之の話をどこまで信じたら良いのか。 目の前の男の言う、それぞれのサクラへの思いが二人を引き合わせたのだろうか。 『…リュウジ……どこにいる…?リュウジ……おまえをさがしてる……おまえにあいたい……』 何でこんな時に、思い出してしまったんだろう。

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