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第78話

「…サクラ。サクラ。サークーラ」 2週間の療養後、 サクラはすっかりいつもの調子を取り戻し 龍司の呼びかけをよそに、部屋中を跳ね回っていた。 こうして元気でいることが当たり前ではないのだと、今回のことで身を以て学んだ。 予期できない事にあまりにも不慣れで、 心の整理にしばらく時間がかかった。 ベッドに仰向けになる龍司の周りを 行き来するサクラを、両手で掴み取る。 自由を奪われたサクラは、小さく丸まっていた。 「サクラ。…お前は孝之と、夢の中でどんな風に会ってるの」 サクラは小さくあくびをして、 辺りを見渡している。 龍司の問いかけには、関心がないようだった。 「孝之と…キスしたり…してる?」 一体、何を聞いているのか。 急に呼吸がしづらくなって、 サクラを持ったまま身体を横に向けた。 視界が変わったことで、サクラは龍司の 両手の中でせわしなく手足を動かしている。 "サクラは…お前の顔をしてるんだ" 「…じゃあ…なんであんなことしたんだよ…」 あの日、孝之は確かに龍司の元へやって来た。 そのことは本人も記憶していたようだ。 夢と現実を上手く結びつけることができない。 孝之は、龍司に何をしたかを覚えていないようだった。 "リュウジ" 夢の中でこだまする、あの声。 夢の中で抱き留められた、あの大柄な身体。 塞がれた唇。 受けた刺激は龍司の熱を掘り起こし、 身体に纏わりついていく。 「やめろ…やめてくれ…」 いつの間にかサクラは手から離れ、 うつ伏せになった龍司の顔の横に座った。 枕に顔を擦り付けるように頭を押し付けるも、 腰元に集められた熱は徐々に龍司の思考を 溶かしていく。 「孝之………」 集められた熱を解くように、 龍司は右手を腰元に忍ばせた。

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