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第77話
"サクラは…お前の顔をしてるんだ"
絞り出した一言に、
後悔の色が滲む。
なぜあの時、あんな事を言ったのか。
龍司との距離を、広げることになったかもしれないのに。
「…今夜、龍司に電話する」
「言うの?本当のこと」
「言い方は…考える」
殿上は食器を乗せたトレーを持って立ち上がり、返却口に持って行った。
そのすぐ隣にある売店に立ち寄る姿が見える。
しばらくすると、コーヒーと山盛りの小さな小包装のキャラメルをトレーに乗せて戻って来た。
「好きでしょ」
「…大好き」
女子、だよねと笑いながら
殿上は山盛りのキャラメルを孝之の前に次々と積み重ねた。
「頑張って」
「………お前の優しさの基準がよく分からん」
「孝之には、幸せになってほしいって思ってるよ」
孝之は、嬉しそうに目を細める
殿上の笑顔に張り付いた企みを見逃さなかった。
小さな声で"ヤッたら教えて"と呟いた殿上に
キャラメルを一粒投げつけると、
男は掛けていた丸い縁の眼鏡が鼻からずり落ちるほど
軽やかに笑った。
脱力し切ったやりとりに苦笑しながら
孝之もキャラメルを一粒、口に放り込む。
ほろ苦くも温かい甘さが、口の中に広がった。
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