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第80話
『もしもし。龍司?』
"リュウジ"
携帯の応答ボタンを押して枕と耳の間に挟み、
しばらくその低く、落ち着いた声を耳に
染み渡らせていた。
『龍司?もしもし?』
「…聞こえてる」
『あぁ。サクラは?』
その後話されたことはほとんど覚えていない。
ただ、会話の中で折り混ぜられる"リュウジ"という
言葉だけを拾って右手を滑らせるだけだった。
夢を、現実に作り替えてしまう。
自分の行いに、恐怖と興奮を覚える。
『…なんだよな。………龍司?聞いてる?』
「…………」
『龍司?…大丈夫か?』
「………」
『具合悪いのか?…もしかしてサクラに何か…』
「ない……何も…何も……」
『…そうか。なら、良いけど』
詰める息が漏れないように、
下腹部に力を入れる。
何度も喉を鳴らしては、
繰り返し込み上がる欲望を心の底に下ろす。
熱く高まった身体は孝之の声に敏感に反応して
おさまらない。
「…もうすこし……」
『?』
「もうすこし…何か話してて…」
『…龍司?本当に大丈夫?』
「大丈夫だから」
額から流れ出る汗が、
耳で挟んだ携帯の画面を濡らした。
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