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第81話
「孝之」
『ん?』
「前にも聞いたと思うけど…サクラと夢で…」
『…あぁ。夢に見るよ。時々、出てくる』
息を交えながら問いかけると少し間があって、
孝之の返事があった。
『…すごく、都合の良い夢だ。俺に…』
「……っ………」
孝之の低い声に、耳元がざわめく。
都合の良い夢が龍司を犯し、狂わせる。
"あの大きな手"が
鎖骨を、胸を、腹を、足の間を這う。
膝と横隔膜がびくびくと震え、抗えない。
いよいよ身体の高まりは限界を迎え
添えた手に力が入る。
『…龍司?』
「…っ……ぁ………」
名前を呼んではいけない。
名前を呼んでは。
『"リュウジ?"』
「……っ孝之……っ…」
全身が脱力し、
身体がベッドに沈み込んだ。
流れ出た汗と欲望が身体を濡らし
少しの間だけ、苦しみを手放す。
気づかれないように。
悟られないように。
息を整えるように、飲み込んだ。
それでも時折漏れ出る吐息を抑えられずに、
喉を震わせた。
携帯の向こうからの応答はない。
ただ沈黙を守って。
少しばかり、時が過ぎた。
『龍…司?』
「俺も……」
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