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第84話

『もう。なにやってんの。』 「…うるせぇ」 翌日。 孝之は熱を出して会社を休んだ。 長時間の水シャワーが、 孝之の身体を芯まで冷やしたのだ。 同じ部署に勤める殿上に電話を掛け、 仕事の引き継ぎを頼む。 殿上は呆れた様子ではいはい、と返事をした。 壊れていた。 欲望を全て叩きつけて、力尽きた。 未だにこだまする、自分を呼ぶあの声。 自ら作り上げた、自分を求める天使の顔。 全てが、思うままだった。 『食欲は?なんか買ってく?』 「良い…寝てれば治る」 『お大事に』 「…おう」 殿上の優しい言葉に安堵して、電話を切った。 物音一つしない部屋に、 時計の針が鳴り進む音だけが聞こえる。 天井を見上げ、重い瞼を閉じようとした時 メッセージの着信音が鳴った。 あらかた殿上の嫌がらせメールだろう。 メッセージは龍司からだった。 勢いよく身体を起こすも、関節の痛みに呻き、 またすぐベッドに倒れ込んだ。 メッセージは昨日電話を急に切ってしまったことの詫び文だった。 携帯を握る手に、汗が滲む。 ”…仕事中にごめん” 「”今日は、熱出して会社休んでる”」 ”熱?大丈夫?” 「”風邪だと思う”」 文字一つ打つだけで、 身体の熱が上がるような気がした。 電話の向こうの龍司の顔を思い浮かべる。 その顔はもう、”天使”でしか再現されなくなっていた。 ”食欲は?なんか…買っていこうか” 「”…悪い……頼む”」 孝之は汗で湿った親指で メッセージの「送信」ボタンを押した。

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