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最終話

 目が覚めたら光冴に背負われていて、揺れる視界の中、夕方のチャイムを聴いた。  柔らかな橙を滲ませた光冴の髪が、なんだかとても暖かそうで、思わずそこに鼻を埋める。 「光冴……」 「おお、起きたか」 「本当に、俺のこと好き……?」 「何度も言ったろ。好きだよ。……身体は平気か?」 「……あんまり平気じゃないかも」 「……すまん」  いつもと違う光冴の匂い。けれどきっと、俺の髪からも、同じ香りがするのだろう。 「でもね、いま死んでもいいぐらい幸せ」 「それは困る」  くすくすと微かに笑う光冴。見なくても分かるんだ。どんな顔をしているのか。  だって、ずっとずっと、傍で見てきたから。  ぽろりと落ちていった雫が、光冴の髪に消えて、やがて地肌を濡らす。 「泣くなよ……」 「だって」  いつの間にか家の前に着いていて、そっと背中から降ろされた。光冴の指が、頬を伝っていく雫を拭う。 遣らずの雨は何処に降る 「帰れなくなるだろ」  ――遣らずの雨は、此処に降る  その後、「とにかく涼の初めてが全部欲しい」と言い出した光冴のせいで、暫くアブノーマルなプレイが続くことになるなんて、この時の俺は知る由もなかった――。 【遣らずの雨】帰ろうとする人を、ひきとめるかのように降ってくる雨。

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