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特大エビフライ、のち発情 ②

(ど、どうして……どうして?)  混乱と迫りくる恐怖で足がすくんだのと、トイレのドアが開いて光也が飛び込んできたのは同時だった。 「藤村君!」  光也はすぐさま千尋を胸に抱き寄せ、二人の社員から隠した。その腕は強固な鎖のように千尋の細身を縛りつけ、骨を軋ませる。 「ぁ、んんっ……」  思わぬ痛みの快感に身震いし、濡れた声が漏れ出た。 (……まずい、今のでお腹、きゅんとしちゃった……本当に、フェロモン、出た、かも……)  全身が総毛立ち、うなじがむず痒くなる。抑えたくて、無意識に光也のスーツの胸元を握って顔を押しつけた。 「っ……藤村君」  呼応するように漏れる光也の苦しげな声。  今しがたまで、フェロモンを出している自覚は千尋にはまったくなかった。けれどそのときでさえ本当にアルファ社員の発情を誘発していたのなら、微量ながらもフェロモンを漏らしていると自覚した今は、光也にも当然影響を及ぼしているはずだ。 「すみません、専務、私……」 「大丈夫。藤村君、このまま私にしがみついていてください」  千尋をかかえる光也の腕に、さらに力が入る。 「あっ……専務、苦し……」  苦しいが、気持ちいい。  やはり発情しているようだ。わずかな痛み刺激で蕩けそうになる。  快感を口走りになり、唇を固く結んだ。  それなのに、大きな熱い手がうなじに回り、締めるように力を入れてくる。  息が詰まる苦しさが気持ちよくて、太ももの内側がむずむずしてくる。 「彼は私が抑えますから、あなたがたは早くここから出てください」  指示的で鋭い声だった。その次に人が慌ただしく動作する音と、重い扉が開いて勢いよく閉まった音も聞こえた。  二人の社員が去ったのだろうが、千尋は目を閉じて自身の熱を抑えることに精一杯だ。確認する余裕はない。 「専務も、出てください。僕……私、自分でなんとかしますから」  目を閉じたまま、震える手で光也の肩を押す。といっても長きに渡り突発的なヒートの経験がないから、抑制剤の手持ちはない。個室に連れていってもらうのだけはお願いをして、出ていってもらったら自己処理をしよう、そう思った。  だが、思いも寄らぬ返事が返ってきた。 「こんな状態で一人にはできません。私が、手伝います」  え? と驚いて片目を開くと、光也は千尋を片腕にかかえたままドアまで行き、トイレの内鍵を締めた。  そのまま千尋の両手を脇の壁につかせて、背に回る。 「専務……?」  光也は片腕を腰に回してきて、千尋の身体がずれないように支えつつ、反対の手でベルトを緩め、千尋のスラックスと下着を太ももの真ん中あたりまで落とした。 「ひゃっ、専務!?」  困惑、驚き、焦り。  入り混じった感情の中、薄紅に染まった小ぶりなペニスがあらわになる。さらに間髪置かずに光也にそれを握られ、千尋は身体をしならせた。 「や、やめ」 「いいから、話さずに集中して」 「そんな、こんな状況でどうやって」  だが、トイレで上司に秘部を触られ、痴態を晒しているのが被虐心にくるのか、千尋のフェロモンに当てられた光也の手が余裕なく扱いてくるのに少しの痛みがあるからなのか、千尋のペニスは光也の手の中で熱を伴う芯へと変化していく。 「藤村君、強くしてすみません。でも、早く処理した方がいい……私も、このままじゃ持ちません」  荒く熱い息が耳にかかる。  うぶ毛を揺らす感覚は首筋にゾワリとくるが足りない。  ────いっそ、耳介を噛んでほしい。 「専務。大丈夫、ですからっ……もっと、強く、強くしてください……!」  あり得ない状況だが、ここにいるのは千尋と光也だけだ。 (専務は部下が社内トイレで発情した不始末を収めようとしてくれているだけだ。迷惑にならないよう、せめて早く終わらせた方がいい)  千尋は光也の方に身体をひねり、顔を向けて訴えた。 「専務、お願いします。もっと強く……」  言いかけて、はっと息を詰める。  なんという顔をしているのだろう。  まだごく短い時間だが、今日千尋の目に映った光也は穏やかであり、飄々としていた。  だが今、目の前の光也は額に汗を浮かべ、必死に興奮を抑えているのが見て取れる。それなのに、隠しきれない欲が目をギラつかせていた。  表情のない氷の貴公子などではない。  それは、まるで雄そのものの────  どくん。  獰猛な雄の目に視線を絡め取られ、胸が大きく跳ねた。  毛細血管に至るまで、身体じゅうの血管が自分のものとは思えないくらいに強く速く脈打つ。 「……噛んで……痛くして……!」  無意識に口走っていた。無意識にジャケットのボタンを開け、ベストとワイシャツをたくし上げ、無意識に光也と対面になっていた。 「お願い、ここ、噛んで……!」  千尋は胸を反らせて、触られてもいないのに硬い(しこ)りになった右胸の突起を光也に晒す。 「藤村君!?」 「お願い、専務。痛くして。早く……苦し、からぁ」  もう自分がなにを口走っているのかわかっていない。千尋は熱芯の先端から露を滴らせ、淫らに瞳を潤ませた。 「っつ……!」  光也は一度頭を振ったが、千尋の胸の先に顔を近づけ、請われたままに先を口に含んだ。一度手から離れていた熱芯を強く握り込み、同時に胸先に歯を立てる。 「んぁ! あぁっ……!」  千尋が()ぜるのは一瞬だった。  身体を大きくわななかせた千尋は、へなへなと脱力して光也の胸に倒れ込んだ。  光也は腰を落として千尋を支えると、片手でスーツの内ポケットを探り、ペンより少し太い形のものを取り出す。  ペンニードル型の抑制剤だ。光也はスラックスの上から太ももに打ち込み、大きく息を吐いた。  額からみるみる青筋と汗が引いていくのが見える。だが千尋の意識もそこまでだ。  冷静さを取り戻しつつある光也の顔に黒い霞がかかり、ついには真っ暗になって、見えなくなった。

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