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おとぎ話の時間 ③

 東京上空を遊覧しながら小一時間後、着陸したのは山梨のヘリポートだった。  興奮冷めやらぬまま、次は光也が運転する外国車に乗って、全国的に人気の遊園地に来た。  千尋のくりっとした猫目が輝く。まさか大人になってから遊園地に来れるなんて、思ってもみなかった。 「遊園地、両親が他界して以来初めてです。実は来たいと思っていたから、嬉しいです」  光也も千尋を見て始終口元をほころばせて、片っ端から乗りたいと言う千尋に付き合ってくれた。だがホラーハウスの順が近づくと、どうも様子がおかしい。いつも通りの整った顔なのに、なんとなく肩が下がり、不安げな表情になっている。 「専務、もしかしてホラー系統は苦手ですか?」 「うっ。実はそうなんだ。小さいころ参加した町内会での肝試しがトラウマになってね……」  大企業の御曹司が町内の催しに参加するんだと感心しつつ、光也のような完璧な人間にも弱点があることに親近感が湧いた。 「大企業の敏腕専務の弱点がホラーだなんて、社員が知ったら驚きますね」 「内緒ですよ。もしライバル会社に情報が流れでもしたら、これをネタにされて、取引が不利になるかもしれません」 「あははは」  光也が人差し指を鼻の前に立てて冗談を言うのがおかしくて、声を立てて笑う。 「じゃあホラーハウスは外しましょう。随分回ったし、一度休憩されますか?」 「ううん、こうしていてくれれば、きっと大丈夫」  手を取られ、胸の位置に上げられた。 「手を繋いでいてくれませんか? 藤村君がいたら頑張れると思います」  手をぎゅっと握られ、甘い声で言われると、胸の奥もぎゅっと締まる気がする。 「しょうがないですね。僕が専務をお守りしますよ」  昨日までの千尋ならその手を振り払っただろう。  でも今日は。  大きな手を握り返し、しっかりと繋いだ。

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