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満点の星空の下で ⑤
「あれ……? もしかしてみっくん、エビフライのとき、フェロモン……出し、た……?」
いつもと変わらない日々を送っていた千尋が、加虐 なしに突如発情したとは、やはり考えにくい。でも、ハイアルファが故意にフェロモンを発していたとすれば……。
信じられないものを見るように、千尋は目を見開いた。
「……バレたか。変身した千尋がかわいすぎて、ちょっとでも早くマーキングしなきゃ取られる、と思ってね」
ふふふ、と笑う。ぺろっと舌まで出して全然悪びれる様子がない。
「ずる、ひどっ! 会社で、仕事中にフェロモンを浴びせるなんて! おかげで僕がどんなに大変だったか!」
それがきっかけで光也と暮らせたのだけれど、と浮かんだ事実は、今は置いておく。
下腹の熱は冷めやらないが、生真面目で仕事熱心な千尋は光也の膝から降り、専務執務室の第一秘書の顔で訴えた。
「専務、絶対に会社では駄目です。公私混同はおやめください!」
「わぁ、さすが仕事に真面目な藤村君ですね」
光也も専務っぽく話すが、専務っぽいだけで、全然反省の色は見えない。
「本当に二度としては駄目ですよ! セクハラですからね!」
顔を真っ赤にして怒りをぶつけるが、光也はたまらなく楽しいというように笑って、腰をかかえにきた。
「はいはい。会社ではもうしません。でも言っただろう? 今日はデートだって。デートの意味をゆっくりと教えてあげる。千尋が疑いようのないようにね」
耳介を甘噛みされながら、耳の中に低い声を送られる。甘いい匂いがぶわっと香り立ち、千尋の鼻腔に絡みついた。
「 あっ……!」
下腹から尾てい骨へ、尾てい骨から背筋を駆け上がって脳天へ。
甘い痺れが身体を貫いて、下肢の力が抜けた千尋は光也に体重を預けることになった。
***
「あ、やっ……自分で、自分でしますからっ」
泡いっぱいのバスタブの中、裸の光也に包み込まれた千尋は、チノパンのファスナーを降ろされていた。
ベランダで力が抜けた千尋を横抱きにした光也が、風呂に入れてあげるとバスルームに向かい、千尋を服を着たままでバスタブに沈めたのだ。
光也は躊躇なく衣服を脱ぎ去り、男らしい筋骨の体躯をあらわにして、千尋の視線と身体の自由を奪った。
「いいから任せて。千尋のことなら全部してあげたいって言っただろう? ほらお尻、上げて?」
「だからってどうして僕が服を着たままで、専務が裸なんですか! あっ!」
チノパンのウエストラインからするりと手が差し込まれた。尻の片側を鷲掴みにされ、意思に反して腰が浮く。
「いい子。じゃあ次はシャツ、脱ごうね。はい、手を上げて」
チノパンは足から抜かれず足首でまとめたまま、ポロシャツの裾をめくられた。
「ぁんっ……」
男らしいふしのある手が、服を脱がせながらも肌をこすり、胸の先を撫でてくる。
さらに、濡れて重くなったポロシャツを手首で止められ、そのまま両腕を上げさせられて、背中や腋 のくぼみを舐 られる。
「も、もう、専務、やめてくださっ……!」
「名前で呼んでよ」
耳の中に低い声を囁かれると力が抜けるのはもうわかった。わかったところで今は耳を塞ぐことはできないのだが。
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