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オメガじゃないオメガ ⑤

 一緒に暮らし始めて、本当はもう光也が暗闇もお化けも怖がっていないことに気づいている。こうしてときどき「みっくん」の片鱗を出して、千尋の気を引こうとしていることも。 「ごめんね。足元ランプくらいつけておけばよかった。次からは気をつけるね」  "次"と千尋が言った言葉が嬉しかったようで、光也は「これからはずっとね」と微笑む。 「成沢さんから聞いているけど、二種類の血液検査結果が三日後に出るそうだね。次は必ず一緒に行こう」  千尋がうん、とうなずくと、光也は突然何かを思い出したようにくすくす、と笑った。 「俺ね、さっき泣きじゃくる千尋を抱っこしながら、実はちょっと……いや、凄く、かな。嬉しかったんだ」 「え? 嬉しい?」 (泣いている僕を見て嬉しいなんて、みっくん、変なサドっ気が……?)  千尋が怪訝に眉根を寄せると、そこに光也の唇が降りてくる。 「……まさかこんな形でとは思わなかったけど」 「?? なんのこと??」 「俺と番いたい。ずっとそばにいたいって、はっきり言ってくれたよね? あれは、プロポーズと受けとっていいね?」 「……は……ち、ちがっ……」  猫目と小さな唇をまんまるに開き、首を振って否定する千尋だが、光也はわざとらしいほど嬉しそうにする。 「感動だなぁ。千尋は"好き"とは言ってくれるようになったけど、将来を示すような言葉は言ってくれたことがなかったし、積極的にベッドに誘ってはくれないだろう? 俺ばっかりしたいと思っていたけど、千尋も同じ気持ちだったんだね」 「し、したいって、何を……」  プロポーズといえば結婚だ。どうして艶めかしい瞳で見つめてきて、意味深な言い方をするんだろう。 「何って。番いたいってことは、最高潮に感じるセックスをしたいってことだよね?」 「! そ、それはただ表現として番う、って言っただけで、そんな、最高潮とか、そんな意味じゃなくて」 「え……したくないの?」  光也は焦る千尋に意地悪に絡んでくる。おかげで、さっきまで真剣に悩んでいたことが吹き飛んでいく。 「だから、そうじゃなくて。……もう、みっくん、ふざけないでよ!」  張った胸板をとん、と叩くと、その手をすくわれ、口に含まれてしまった。 「みっく……んっ……!」  千尋の秘所を舐めるときと同じ舌使いで指を舐め、見つめてくるから、うなじが熱くなってしまう。 「してほしい?」 「……して、ほしい」 「素直でいい子だ」  言いながら横抱きのままかかえ上げられ、ベッドに沈まされる。 「千尋、きっと大丈夫。今も千尋からクチナシの香りがする。俺と会ってから、徐々にフェロモンが濃くなっていると感じるよ。身体もきっと変わってくる……変わらなくても大切な千尋であることに変わりはない。だから、何も怖がらないで」  愛撫が始まる。しだいに光也の息が荒くなり、首に斜めに走る筋が怒張し、額には汗。  千尋の発するフェロモンに当てられているのだ。   それでも光也は本能に抗い、千尋を傷つけまいとしてくれる。  アルファが本能をむき出しにするとき────ラット化と呼ばれるが、自我をなくし、オメガを孕ませようとする欲求だけで狂ったように腰を打ちつける生き物になり代わってしまう。  一度につき半時はかかる射精が終わっても、オメガの子宮口に喰らいついた亀頭球の興奮がおさまるまで、一昼夜の間ペニスを抜かずに何度も何度も子種を注ぎ込むのだ。  また、正常体のオメガでも、ラット化したハイアルファの亀頭球が貫通する痛みはそれなりにある。すぐに馴染み、言い表しがたい快感に変わっていくとはいえども、朝まで途切れないセックスは体力のないオメガには酷だ。  千尋の今の状態でラット化した光也を受け入れれば、間違いなく身体が壊れてしまうだろう。  だから光也は決して()けないのに、今日も千尋だけを達かせようとする。逆に言えば、通常のアルファよりも強いとされるハイアルファの性欲をため込む光也の体にも、大きな負担がかかるはずなのに。 (いっそ、めちゃくちゃにしてくれたらいいのに。痛みを感じて意識を保っていられるくらいに、強く、強く)  そう思いながら、千尋は光也の甘い愛撫に身を任せ、意識を手放した。

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