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お願い、僕をいじめて ⑫
そうして、いつしか痛みが甘い痺れに変わる頃、千尋の|胎《はら》の中は、暖かいもので満ち満ちていた。
千尋を乗せた光也の片ももは、湯をこぼしたように濡れきって、いく筋もの蜜が糸のように流れている。
「千尋、頑張ったね……たくさん、フェロモン、ためられたね。今、楽にしてあげる、から……」
後孔から指が抜かれる。それと同時に、くちなしの香りがする温かい液がこぷっと溢れた。
ローションだけではなく自分の蜜液の方が多そうで、千尋は達成感のようなものを感じてほっと息を吐いた。確かに胎の中に、たくさんのフェロモンを溜めておけたということだ。
「こっちも外そう、ね……」
オメガらしく小ぶりでも、千尋にとっては最大限に大きく変化していた熱芯は、いつの間にかリングが喰い込んでいた。
切迫した息を整えながら、光也がコックリングを外してくれる。
「ぁ……!」
外してもらうと急激に開放感が訪れる。
自然と肩の力が抜け、首も項垂れる。すると、落とした視線の先に見えたものは、互いの腹の間に挟まれた光也の熱塊だった。
思わず喉が鳴る。光也のそれは、怒り狂うように赤く腫れて反り返る、凶悪な獣のような姿をしていた。
「すごい……」
あまりの猛々しさに、つい手が伸びて握ってしまう。光也は「うぐ」と喉でうなると、千尋を抱えている片手に力を入れた。
あっという間に景色が回転し、ベッドにうつ伏せにされている。
強く腰を引かれて、前腕と胸をベッドに沈めた四つん這い姿になってしまった。
そしてその次の瞬間、千尋は目を見開いた。
とろとろに蕩けて柔らかくなった後孔に、熱い切っ先を当てられている。
「あぁ……」
この熱いもので、|胎《はら》の奥でくすぶる疼きを解放してほしい。
フェロモンの効果で柔らかくなった千尋の後ろは、ぱくぱくと口を開け、アルファを誘う。
(入ってきて、奥に……)
千尋のその望みに呼応するように、切っ先は肉輪をこじ開け、深くへ潜り込もうとした。
(ああ、くる……!)
期待に力が入り、千尋はシーツを握り込んだ。
――ところが。
「……っまだ、早いっ」
もがくように声を出し、光也は腰を引いた。孔内に入っていた先が抜けると、千尋の肩に激しく噛みついた。
「ぁうっ……!」
アルファ特有の鋭い犬歯が食い込んだ。
だが不思議と痛くはなかった。甘い悦楽が身体中に広がり、頭がくらくらする。
まるで、媚薬を塗り込めた楔を打ち込まれたかのようだった。
千尋は肘を折り、上体を崩す。その間に光也の熱塊は千尋の会陰の下に入った。
光也は千尋の太ももをぴっちりと寄せると、堰を切ったように乱暴に腰を打ちつけてくる。
尻を叩かれているかのように、バチンバチンと尻の皮膚が鳴った。
「あ、あぁっ……!」
まるで挿入されているかのような錯覚を起こす。
激しく揺さぶられた。ときに太ももから外れそうなくらいギリギリまで引かれると、次は強く打ちつけられた。
会陰から亀頭に向かって互いのものが擦れ、言い表せない快感が背筋を駆け上がる。
「千尋、千尋……!」
うわ言のように千尋の名をつぶやく唇は、胸の先を荒々しい指遣いで捏ねながら、千尋のうなじや背中に赤い痣を残していく。
その合間合間に肩や首筋を強く噛んでくることもあった。
「ぁう、い、た、いたいっ……気持ちいっ……」
そう漏らせば後ろから顎を掴まれ、攣ってしまいそうなくらいに身体をひねられて、唇に噛みつかれ、舌を吸われて――
途中たくさんの白濁を吐き出し、繰り返しシーツを汚したことは覚えている。その間、果てることを知らない光也がうなじ以外へのマーキングを続け、腰を打ちつけてきていたことも。
だが、しだいに意識は消え失せ、気づいたら翌日の朝だった。
瞼を開いたら、千尋はまだ光也の腕の中にいた。
昨夜とは打って変わり、すっかり穏やかになった光成の顔、規則的な呼吸と胸郭の動き。
それらに幸せを感じながら、千尋は再び温もりの中で意識を落としたのだった。
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