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混迷と昏迷のあいだで ⑧

「? 成沢さんと同じこと言ってる」  くんくんと自分の匂いを嗅いでみるが、もちろん自分のフェロモンの匂いなどわからない。体のだるさと、今しがた光也にからかわれて熱くなった体の火照りはあるが、それくらいだ。  だが、ぽてんとベッドに体を預けた目線の先、積み上げた光也の服が視界に入ると腹の奥がじんわりとしてくる。セーターの袖を引っ張って鼻に近づければ、ペニスと後孔が甘く疼いた。 「ぁ……また、したくなっちゃ……」  もういい加減にしないと、と思うのに、千尋の手は意思を超えてチノパンのファスナーを下ろし、下着の中にすべり込む。 「ぅ……ふっ……」  すでに蜜で濡れそぼり、熱を持った芯を上下に扱くと胸の先が寂しくなる。指先で摘まんで、すでに硬くなってぷくりと実を持った先をくにくにと慰めた。 「んっ、……ふぁ……も、いっちゃいそ……」  光也の甘い声を聞いた直後だからだろうか、それとも連日、弄ってばかりいるからだろうか。すぐに達しそうになる。 「だめ……がまん……うしろ、さきにうしろ……」  ろれつが回らない足らず口になりながらも、千尋は光也の服の山の一番下にあったコックリングをつけ、ローションのボトルの蓋を開けた。 「……ない……うそぉ……」  生理的な涙が滲んでいた目から、悲哀の涙が落ちる。  ないのだ。ボトルを逆さまにしても強く振ってもローションは出ず、ボトル壁に少し残った雫しか落ちてこない。 「ぅ……どうしよ」  これがないと後孔は充分には濡れない。言いつけを破り、先に前から|射精《だ》して、それを塗りつけようか。いや、一度触れてみて……。 「……ぇ……? 濡れてる……ぐちょぐちょ……」  迷いながら結局後ろに伸ばした手に、体温と同じ温かさの粘りがまとわりついた。  自分では気づかなかったが、粘りは下着を濡らし、チノパンにも染みを作っている。 「あ……ぁっ……」  自分の手なのに、自分の体なのに不思議だ。手は粘りの力を借りて勝手に孔の中へ進み、ひくつく内壁を撫でこする。  指が上下するたびに甘い悦楽が全身を駆け巡り、心臓はゴムまりのように弾んだ。 「はぁぁ……ん、きもちいぃ……」  時間がたつに連れ、自我は失われていった。もう、精を放つことだけに意識が囚われている。  そんな昏迷の中で、千尋は後孔を指でかき混ぜ、反対の指でコックリングを抜き去り、赤く熟れた欲情の熱芯をじゅくじゅくと音を立てて上下するのだった。

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