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番外編Ⅰの① 見えない鎖がほどけるとき⑦とオメガじゃないオメガ①の間の話
*こちらは本編「見えない鎖がほどけるとき⑦」と「オメガじゃないオメガ①」の間の話です。
八月のある日、千尋は一時自分が住んでいた賃貸アパートへ戻っていた。
完全に光也の屋敷へ転居するための準備と手続きのためだ。
「荷物は少ないからすぐに片付きそうだけど……問題はこれだな」
似たような暗い色の服が数枚しかかかっていないクローゼットを開けると、下着や靴下を入れてある衣装ケースがある。その一番下の引き出しには、千尋のウフフ道具が入っていた。
「鍼シール……は、肩こりにも使えるし、もしみっくんに見られても言いわけできる」
こくこくうなずき、「持って行く物箱」に入れる。
ドラッグストアで普通に売っているツボ刺激のシールは、乳首に痛み刺激を加えて感じるために使っていた物だ。
「ニップルクリップは、駄目だよね。一見アクセサリーに見えるけど、女性物に見えるもの。訊かれたら答えられない。……うん、燃えないゴミにしよう。今までありがとう」
こちらは「捨てる物箱」入りだ。繊細なチェーンにクリスタルパーツ三連で付いている可憐なデザインだが、他に使い道はない。
お世話になったお礼とお別れをきちんとして、箱に収めた。
「ディルドや電動プラグはもともと使わなかったし、いいか」
千尋は自分の指で後孔をいじるのが下手なので購入してみたが、ローションを多用しないと入りにくく、数回しか使わなかった。
かと言って今後も使う予定はない。これも「捨てる物箱」だ。
「あとは……うぅ、これを捨てるのは寂しいな……」
通っていた「CLUBマゾ」で購入したハンドカフス。赤い合皮の素材で高価な物ではないが、自慰の際の妄想を捗らせてくれた。
また、身体を拘束しているとなにか安心感を感じるときもあった。赤ん坊が布でぴったりと包まれると、泣きやんでスヤスヤ眠るのと同じ理屈だったのかもしれない。
「みっくんは絶対に使ってくれないだろうな……でも、八ヶ岳の別荘で」
ムクムクムク。
別荘のバスルームでの洋服拘束が頭に浮かぶ。
濡れた洋服に手足の自由を奪われ、男らしい光也の身体に包まれて全身を愛撫された。
両方の乳首を捏ねながら、うなじや腋の下を肉厚な舌でなぞられて、千尋のものはすぐに芯を持って……。
「んっ……」
なんて簡単な身体だろう。同居が始まってから心も身体も愛してもらっているせいか、思い出しただけで身体は熱くなり、後孔がきゅう、と窄まる。
……ちょっとだけ。
千尋はハンドカフスを片方ずつ手首に巻き、自分でつけられるように長くしているチェーンと器用に接続して両方を繋いだ。
その手を太ももの間に滑らせ、熱芯を柔く握る。
「みっくん……」
先走りを熱芯に塗り広げながら、吐息混じりに愛しい名をつぶやいて瞳を閉じた。
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