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番外編Ⅱの⑥
❋❋❋
「あっ、あっ、んんっ、すき。みっくん、すき」
四つん這いになって、きゅうきゅうと哭いていた孔の中を拡げられながら、一度潮を放った先に再びガーゼをかぶされて、表面をくるくると撫でられている。
「千尋のナカ、熱い……」
切なげな息を漏らす光也の指もとても熱くて、対面で触れてくれないのはアルファの強欲を隠すためだろうと思われた。きっと光也の腹の下のものは、千尋の中以上に熱をもっているはずだ。
だから本当なら口でしてあげたいと思う千尋だが、二度目のローションガーゼも千尋の思考を奪ってしまう快感で、ただただ嬌声を上げて腰を振ることしかできない。
「うん……ずいぶん柔らかくなったね……フェロモンも凄いよ。もうそろそろイかせてあげるからね」
「んっ、イきたい、イかせて……!」
この切迫感は、まだ経験したことのない発情期に似ているのかもしれない。
イきたいのイけない。気持ちいいのに苦しい。
抗いがたい性欲を発散できない切なさから早く開放されたくて、心も体も愛する人を必死で追い求める。そんな、発情期に。
(僕も……本当のオメガに、なれるよね……本当のヒートが、わかるようになるよね……)
身体中がすでに熱いのに、下腹が、胎児を育むための腸の最奥が、いちだんと熱く感じる。
千尋の願いに呼応してくれているのかもしれない。
「みっくん、みっくん、みっくん……!」
お願い、僕の熱を開放して、と祈るように名前を呼ぶ。
「千尋……俺のオメガ、愛してるよ……!」
「あぁっ……!」
孔の中にあるグリグリを指で押し上げられ、亀頭のローションガーゼも外されて、ようやく陰茎をこすってもらえた。
熱い光也の体温と指の関節、手のひらの皺さえ敏感に感じ取れる。
うなじをきつく吸われれば一瞬で背骨に電気が走り、頭の中でスパークする。同時に、腹の中の疼きもはじけて、千尋はようやく白濁を放てた。
「は……ぁ……」
そうしてやはり、意識は薄れていく。目の前に霞がかかり、沈むようにシーツの上に体を横たえた。
「千尋。起きられる?」
気持ちのいい手に髪を梳かれて頭皮を撫でられる。
このまま撫でられていたいけれど、閉じた瞼に光が差しているから目覚めの時間なのだろう。
「……みっくん。おはよ……」
「おはよ」
ゆっくりと瞼を開けると、ちゅ、と眉間にキスしてくれて、そのまま顔を覗いていてくれる。
これは千尋の顔色を見る以外に、千尋の瞳が朝の光にゆっくりと慣れるように、影を作ってくれているのだ。
「どうかな、体調は。ご褒美のつもりだったのに、たくさん意地悪しちゃってごめんね。辛かったよね」
頬を指の裏でそっと撫でられる。ひとつひとつの所作に愛情が感じられて、一日の始まりから幸せな気持ちで胸を満たされる。
「意地悪……? 別にそんな……あっ……」
思い出した。昨夜恐ろしいほどの快感に「意地悪しないで」なんて言ってしまった。
「……意地悪なみっくん、どきどきしちゃった」
言ったそばから恥ずかしくなって、掛け布団の中に沈んで光也の胸に顔を埋める。
光也はふふ、と笑って布団ごと腕で包んでくれた。
ほかほかと暖かくて、光也の香りがいっぱい。再び微睡みの世界に戻りたくなる。
「ふ……ふふ」
「みっくん?」
ぎゅ、と抱きつくと、思い出し笑いをするように光也が震えた。
千尋は布団に潜ったまま光也の顔を見上げる。
「いや、昨日の千尋、新しい顔を見せてくれて……なんていうか、ホント、かわいかったなぁって……」
「新しい顔?」
うーんと考えるが、脳みそが蕩けていたから後半はよく覚えていない。
子どもみたいな言動をしたことも、潮を吹いたことももちろん。
潮を吹いた後、実は千尋はすぐに孔を拡張されていたわけではない。
潮吹き直後、千尋はトロトロのヘロヘロになって、呂律が回らないまま光也に甘えていた。
「しゅき、しゅき、みっくん♡」
なんて、お漏らし状態のまま光也の腰を跨いでお座りして、自分からキスをせがんだり、小さな舌で光也の体中をペロペロしたり、ローションガーゼを持って「ここも♡」なんて自分から乳首に当てておねだりしたり……果ては胸だけをベッドに付けて、上げたお尻を自分でくぱぁと開き、「ここにみっくんのおっきいの、くらしゃい♡」なんて蕩けた瞳で言ってくるものだから……。
光也が三本目の抑制剤注射を打つか悩んだ結果、素股をしたことも覚えていないだろう。
「ああいう千尋が見れるなら、またやってもいいかな、って思うな。モトさんが言ってたんだ。パウダープレイとか……焦らし好きさんにはポリネシアンセックスもいいですよって」
「ポリネシアンセックス?」
頭の中に外国が浮かんだ。
真っ青な空にエメラルドグリーンの海と白い砂。藁葺き屋根の水上コテージ。
そんなネイチャームードが漂う場所でするセックスのことだろうか。
なかなかに素敵だ。部族の首長と性奴隷の妄想が捗る気がする。
「うん。調べてみたら、千尋に合いそうだった。どっちも今度やってみようね」
「みっくん……!」
とうとう本格的にSMプレイを考えてくれるのかと、千尋の胸は光也とモトへの感謝の気持ちでいっぱいになった。
千尋は大きく「うん!」と頷き、光也の胸にスリスリしてから、ちゅ、とお礼のキスをした。
(えへへ、幸せ。次のプレイはいつかなぁ)
────だが、当然それらは千尋の思い浮かべるSMプレイとは違っているし、昨夜のプレイで千尋が色香ムンムンになってしまったことで、ブラジルチームの会議でアルファ性のスタッフの千尋を見る目が色めき立つのを見た光也が、特殊プレイをすることは番を結ぶまでは、二度となかった。
番外編Ⅱ終わり
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