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番外編Ⅱの⑤

「み、くん、これ、おかしいの、なんか、爆発しそうなのに、しないの、おなかの中、あついのに……ひゃ、ぁああ! だ、だめっもぉ無理、むりぃ!」  こすられるたびに快感の波が襲ってくる、それなのにそれを見えない力に堰き止められる。  千尋は頭が回らなくなりつつあるが、これは間違いなく「寸止め」状態だ。  射精管理が始まってから何度も焦らされているが、それでも陰茎や後孔を触ってもらえていた。でも今日はペニスの先のたった三センチほど。  そこにしか触れてもらっていないし、しかもガーゼ。光也のフェロモンローションが染み込んだガーゼとは言え、これは寂しくて切なくて辛い。 「みっくん、も、と、触って、さわって、さわってえ……いじわる、やだぁ」  あんなにいじめてほしかったのに、辛くて辛くて子どもみたいに泣いてしまう。  ハンドカフスで繋がれた手を握り、光也の胸板を叩いた。 「千尋……かわいい。意地悪、してるつもりはないけど、嫌だよね、意地悪」  蕩けそうに目を細めて、涙をキスで拭ってくれる。唇にも降りてきて、優しく吸うと、舌を挿し込んで千尋の舌と絡めてくれた。  けれどガーゼを動かす手は止めてくれなくて。 「ひっ。や、やら、へん、へんになるから、らめ、やめてぇ」  呂律が回らなくなってくる。  どんどん腹が熱くなり、亀頭がじんじんするのに自分ではどうすることもできない。 「うん。でもね、千尋、すごくフェロモン出てるよ。頑張れ、頑張れ。いい子だね。もう少し頑張ろうね」 「あぁん!」  ずりゅっとガーゼをずらされ、一度外される。それさえも刺激だったが、再びぐっしょりと濡れたガーゼを乗せられた。  ──きぃぃぃん。  さっきは人肌だったローションは冷めていて、今度はひやりとした感覚が尿道を突っ走る。    自分が呼吸をできているのかもわからない。考えようとする間にもガーゼが動き、かすかな繊維の目で亀頭の薄皮を削られ、しっとりしたローションでゼリー状の皮膜を貼られていくような、おかしな感覚に襲われる。 「これ、本当にすごいな……千尋の後ろ、すごく濡れてる。今ここに手を入れたら、ふやけちゃいそうだね」  光也がなにを言っているのかもよくわからない。だからせめて名前を呼ぼう。 「みっくぅん、みっくぅん」 「うん、千尋、大好きだよ。愛してる。もうちょっとだけ頑張ってね。そうしたらちゃんと射精させてあげるからね」  射精。そこだけは鼓膜にぶつかってきた。 「ぁい。イきたいでしゅ。イかせてくらしゃい」  だがもうなにを言っているのかさっぱりわからない。千尋は夢遊病状態だ。  顔は涙と涎でグチョグチョだった。 「……ハァ……たまらないな。かわいすぎるよ、千尋」  ちゅ、と舌を吸われて、口の周りを舐められて、唇が離れる。  そのしばらくあと、今まで以上の愉楽(ゆらく)が千尋を襲った。 「はい、くるくる~~♡」  くるくる……?  千尋にはもう見えていないが、甘い甘い声で、そう言われた気がする。 「ァ、ひゃ、な、や、ァァああ~~!」  きゆっるっ、きゆっるっ、きゅううぅんっ。  光也はたっぷり濡らしたローションガーゼを細く畳んで、千尋の段差にゆるく巻き付けると、それがくるくると回るように端を交互に引っ張っている。 (いきたい、いきたい、いきたい、いけない。いきたい、いけない、くるくる、こわい、こわいよくるくる、いきたい……!)  体がどうなっているのかわけがわからない。  吐精感をゲージで表すなら最頂点まで達しているのに出せなくて、でも双珠までキンキンに緊張して、次から次に快感の「白」が生まれてくる。  このままでは体中の血液が真っ白になってしまうかもしれない。  千尋には後孔があれば番契約を結べるのだが、一応男のオメガである証拠のペニスも、溶けてなくなってしまうかもしれない。 「くるくる、らめえぇ! こわい、こわいよぅ。体が精子になっちゃう。おちんちんなくなっちゃう。みっくん、助けてぇ!」  千尋は必死の思いで叫び、身体を起こした。ハンドカフスで拘束された手を光也の首にくぐらせ、ぎゅっと抱きついて、体を揺すってこすりつける。 「……ああ、今日も負けちゃうな。やっぱり俺に千尋をいじめるのは無理だ」  吐息混じりのなにかが聞こえて、次の瞬間痛かった根元がすうっと楽になる。同時に腹の中の熱が一気に膨張して、大噴出するような感覚を覚えた。 「んぅ、んんんん~~~~!」  続いて、プシアァッとペニスの先から水が(ほとばし)り、ビシャビシャと太ももが濡れる感覚に見舞われる。  清々しいほどの開放感と爽快感。なんて気持ちがいいのだろう。  大草原を走っている最中に打ち上げ花火で大空に放たれ、月の揺りかごに載せられた。  そんな幻影が千尋の頭の中に流れた。 「はぁ〜ん……」 「わ、千尋、すごい。潮、吹いたんだ?」 「しお……?」  脚の間を見る。溢れたものが白く見えないのは、きっと千尋の目が霞んでいるからだ。

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