次の日は店が休みだったので、ユイトはいつもよりゆっくりと起きた。昨夜寝る時には殴られた頬に湿布を張ったが、起きて剥がしてみるとまだあざが残っていた。当然、一晩では治らないかもしれない。 　そのあざを見るだけで、昨夜のことが苦々しく思い出された。先輩に突っかかってしまったのは、彼がかなり稼いでいることへの羨ましさもあったのかもしれない。それでも、殴られたことにはムカっ腹が立った。 　ユイトは朝食を摂ろうと準備に取りかかる。と言っても、インスタントラーメンとかコンビニ弁当ということが多い。たまに、気分を替えて自分で調理をすることもあるが、面倒に思えてしまい簡単に済ませてしまうことが多い。 　実家にいた頃は、弟妹達のためにごはんを作ったこともあったのだが、自分のためとなると途端に面倒臭くなってしまうのだ。 　これでは体に良くないと頭ではわかっていても、ユイトはさほど食に関して頓着がない。 　特に今日は休みなので、つい手を抜いてしまう。 　お湯を入れて三分でできたカップラーメンを啜っていると、ユイトの携帯電話が着信を知らせる。電話がかかってきたもので、ディスプレイには店のオーナーの名が記されていた。 もう話がいったのかと、ユイトは途端に気分が憂鬱になってしまう。昨夜、殴られた場にはオーナーはいなかった。きっと、誰かがオーナーに知らせて、叱りの電話を入れて来たのだとすぐにわかった。 『はい……』 　ひとまず深呼吸をしてから電話に出た。 『蓮か。話は主任から聞いたぞ』 　やっぱりか、とわかるとますます気分が滅入ってしまいそうだ。 主任とは、優牙をいさめてくれた先輩ホストだ。早速オーナーに話したらしい。 まぁ、主任としては店の少しのトラブルでも話さなければいけないのだ。それはユイトにもわかる。だが、少しだけ主任が恨めしく思える。 『すみませんでした、オーナー』 こういったトラブルは早く終息させることが大事だと思い、ユイトも素直に謝った。 『優牙も殴ったのは悪いし、最初にいちゃもん付けたのはあっちらしいからな、それは仕方ない。お前は殴られたんだしな。大丈夫か？殴られたところは』 『あぁ、はい。湿布張りましたし……でも、まだあざは残ってます』 『そうか。それは災難だったな。明日は休みにするか？殴られたあざがある状態で女の子の接客できないだろ』 　確かに、客にあざを見られたら何かトラブルにでも巻き込まれたのだろうかと誤解されかねない。まぁ、実際にそうなのだが。 『あぁ、でも大丈夫ですよ。裏方とかやるんで、出勤できます』 　ユイトは、今後数日間は店の厨房でドリンクを作ったりしていようと思っていた。もし指名された場合には、余興用に店に置いてあるファンデーションを使ってあざをごまかそうかなどとも考えていた。まぁ、それで上手く隠せるかはわからないのだが。 『そうか？……しかしなぁ、蓮。優牙は先輩なんだしさ、気ぃ使えよ。やっぱり従業員のチームワークは大事だしさ、頼むぞ、お前』 『はい、以後気を付けます』 『あぁ。優牙の方も叱っておいたから。まぁ、女の子が指名を替えたとかのいざこざは割とあるからね。簡便してやってくれ、蓮も』 『はい。わかってます。本当にすみませんでした』 　ユイトが謝ると、オーナーはお大事にとユイトの頬を気遣ってから電話を切った。 　その後、ユイトは少し伸びたラーメンを食べ終えてから何となくテレビのワイドショーを観たりして時間を過ごした。 　しかし、夜になると何となく気分転換をしたくて飲みに出掛けることにした。あざを作っている身なので、少々気が引けたものの、飲みたい気持ちが勝った。 普段から仕事でも沢山酒を飲んでいるユイトだが、酒は好きなので家でも飲むことがあるし、一人でふらりと飲みに出掛けることもある。