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第6話
ユイトが訪れたのは、雑居ビルの地下にあるバーだった。店内は薄暗くムーディーな雰囲気があった。客は男性の割合が多く、女性は数えるくらいしかいないようだった。もしかしてゲイバーなのかと思ったが、ユイト自身ゲイであることもあり、飲めればそれでいいと思う。そして、空いていたカウンター席に座った。
その席から一席空けた隣には、スーツを着たサラリーマン風の地味めに見える男が座って一人飲んでいた。そしてユイトも、個人的に一番好きなジントニックというカクテルをマスターに頼んだ。
ジントニックができるまで待っていると、一席空けた椅子に座っていたサラリーマンがこちらを見つめていることにユイトは気付いた。
「なに?」
ユイトよりは年上に見える男に、不快感を隠そうともせずに聞いた。
すると、サラリーマンは少し焦ったように謝って来た。
「あっ……ごめんなさい。あざがあったんで、どうしたのかと思って」
「あぁ……これか。別に何でもない……」
仏頂面でそう言うと、「お待たせいたしました」と言って、マスターがユイトのジントニックの細長いグラスをカウンターに置いた。
「あの、よければ一緒に飲まない?退屈でもあったし……」
サラリーマンにそう聞かれ、ユイトは正直面倒に思った。
「え?いや、俺は別に……」
曖昧にユイトがそう言うと、男はそんなことを言わずに相手をして欲しいと言って、
空いていたユイトの隣に自分の酒と共に移動してきた。
『何で来るんだ……面倒くせ……』
そう思い、ユイトは溜め息を吐いた。
どうしてこうも強引なのだろうと思う。しかし、見かけはとても大人しそうなのに強引な面もあるのかと、その男に少しだけユイトは興味を抱いた。
ちょうど、サラリーマンから見える側にあざができていた。
それが気になったのか、さらにその男はしげしげと見つめてきた。
「あの、頬、大丈夫ですか?」
「……や、ほっとけば治るから」
「でも、何かあったんじゃないかと思って……」
頬のあざの理由を知りたがっているようだが、別に教える気はなかった。
「ホントに、何でもねぇって……」
「そうですか……?あの、俺は久保田奏一です。一応、公務員やってます。君は?」
聞いちゃいないのに、男の方から名乗ってきたことに、ユイトは面倒だという思いと共に呆気に取られるような感じがした。
『何だ……コイツ……』
そう思いつつ、ユイトは律儀にも返した。
「俺は……ユイト、葛城ユイト」
初対面の相手と話すことは、ユイト自身は得意ではないし、正直相手にしなければいいと思う。しかし、ユイトは無下にできなかった。
「へぇ……ユイト君か……葛城っていう苗字もかっこいいね」
奏一と名乗った男は、一人で納得するように頷いている。
「で、仕事は?まぁ、初対面で聞くのもなんだけど……」
「……水商売」
ユイトはぶっきらぼうに告げた。
「え?」
「ホスト……」
少し言いにくそうにしながらも教えた。すると、奏一はきょとんとした眼でユイトを見つめた。
「あ、あぁ……そうなんだ。ちょっと、そうかなって思ったけど……」
ユイトがホストだと知って、少し驚いたようだった。
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