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第10話
次の日から、奏一からメールが来るようになった。他愛ない内容ばかりだったが、放っておけば良いのに、なぜか律儀に返事をしてしまっている自分に気付き、ユイトは自分に内心で苦笑した。
『何で連絡先の交換なんてしちまったんだろう……』
とは言え、この街に来て友達らしい友達もいないので、こういう何気ないやり取りが嬉しい様な気もしないでもなかった。
普段は、店の女性客にもメールをすることはないわけではないが、大抵が”店に来てね”という営業も兼ねたものになるし、それはユイトではなくホストの”鳳城蓮”として行っていることだから、まるっきりのプライベートのメール相手ができたことが、新鮮に感じられた。
あの日から……元彼の橘浩一郎に別れを告げられてから、基本的に人を信用していないユイトだったが、奏一のペースに巻き込まれそうになる。
そして、次の日曜日に奏一も仕事が休みだから一緒に昼飯を食べようと誘われた。ユイトにとっては出勤前の腹ごしらえといったところだが、面倒だと言って最初は断った。しかし、奏一は「たまには日中に外で飯を食べるのも良いもんだよ」と言って、押し切ってしまう。ユイトも、ご飯を食べるくらいなら別にいいかと思った。
日曜日の午後二時頃、ユイトは奏一と待ち合わせをしたイタリアンの店にやってきた。今は春で、外は気持ちの良いポカポカ陽気だ。時にはこうして陽に当たるのも良いかもしれないと、昼夜逆転した生活が基本のユイトは思う。
奏一はすぐに見つけられた。先日、初めて会った時はスーツだったが、今日は少しラフにシャツを着てジャケットを羽織っている。ユイトはと言うと、食事をした後にそのまま出勤できるようにと、いつものスタイルだ。ホストっぽさは出ている。
この前の方が、ユイトは休みだったので格好は今日よりはカジュアルダウンしていた。
「待った?」
第一声、ユイトはそう言って奏一に声をかけた。
「あ、ユイト君……そんなに待ってないよ。まぁ、先にドリンクは頼んじゃったけど」
見ると、奏一の前にはコーヒーのグラスが置かれていた。それに目を留めつつユイトは奏一の向かいに座った。
「っていうか……本当にホスト、なんだね」
「格好のこと?あぁ、そうだよ。いっつもこんな感じだよ、仕事の時はな」
「そっか。前に会った時は、確かもっと普通っぽかった気がしたからさ」
「まぁ……周りと合わせないわけにもいかねぇから……」
「そうだよね」
そう言うと、奏一はクスリと笑った。
今日、訪れたのは人気店だ。何が食べたいか奏一に事前に聞かれたので上手いパスタを食べたいと言ったら、この店がおすすめだということで、選んでくれたらしい。
日曜日の昼時は過ぎているが、客はそこそこ入っていた。
「あ、ユイト君何食べる?俺はボンゴレにしようかなと思うんだけど。美味しいんだ、ここの」
メニューを広げているユイトに、奏一が聞いてくる。
「へぇ……ここ、来たことあるの?」
「うん……まぁ、久々だけどね」
奏一は、何だか声のトーンを落としたようだった。
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