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第11話
何か気に障るようなことを言っただろうか。
「ふーん、じゃあそれ。俺も同じヤツにする」
「いいの?それで」
「あぁ。俺もこの貝のヤツ好きだから」
ユイトはパスタの中でもボンゴレが好きで、パスタを食べたい時は決まってそれを頼んでいたのだ。
「そうなんだ」
奏一は優しげに微笑んだ。
あまりにも穏やかな表情で、ユイトは思わずドキリとしてしまった。そして、こんな和やかな雰囲気も悪くないと思えたのだった。
それから、スタッフがオーダーを取りにきて、二人はパスタが出来てくるまで、当然ながら時間が空いてしまった。少し沈黙が流れたが、それを破ったのは奏一だった。
「ユイト君て、こっち出身の人?」
まだユイトの事をあまり知らないのだから、聞いてもおかしくはなかった。
「いや、違う」
そう言って、ユイトは自身の故郷のことを教えた。ユイトはここから電車でも帰ることのできる場所が地元だ。話しながら、少し母のことも気がかりにもなった。
ユイトの地元の話を聞くと、奏一は嬉しそうに言う。
「あ、なんだ!俺も同じ!隣町だよ」
「そうなの?」
まさか奏一と同郷だとは思わなかったから、ユイトは驚いた。
「奇遇だね」
「まぁな……ってかさ、じゃあ何でわざわざこっち来て区役所に勤めてんだよ」
素朴な疑問だった。
「受けて、受かったからね。まぁ、わざわざ他市から転居してくる職員はそんなにいないみたいだけど」
「へぇ……地元は受けなかったのかよ」
「一応受けたんだけどね、落ちちゃったんだ。
まぁ、親元離れてみたいという気持ちもあったから、こっちに出てきたってところだね」
そう言ってはにかむように奏一が笑った時に、二人分のパスタが到着した。
「美味い!」
一言歓喜の声を上げて、ユイトはボンゴレを黙々と食べた。
「だろ?」
奏一も嬉しそうに笑んで、ユイトが食べるのも見つめつつ、自分のパスタを口に運んだ。
食後、ユイトは食事代を払おうとしたのだが、「俺が誘ったんだし、奢るよ」といって奏一はユイトの分まで払ってくれた。しかし、まだ二回しか会ってないのにそこまでしてもらう理由もないと思い、きっちりと自分の分のお金を奏一の手に渡した。それでも返してよこそうとするので、「いいって」と言って拒否をしたら、渋々ながらも奏一はお金を受け取った。
「今日は、とても美味しそうに食べてたね」
店を出て歩きながら、奏一がにこやかに聞いてきた。
「まぁ、実際美味かったからな」
「美味しそうに食べてくれるのって、作った人にとっては最高に嬉しいことだよね」
「そうかな……確かに、せっかく作っても不味い顔されればムカつくだろうな」
「はは、そうだよね。……ねぇ、まだ時間あるかな」
何気なく、奏一が尋ねる。
「あぁ。まだ出勤には早いし、暇っちゃあ暇」
確かに、まだ店に行くには早い。行ったって暇を持て余すだけだった。
「じゃあさ、付き合ってほしいところがあるんだけど」
「?……何だよ。どこ行くんだ?」
「うん。欲しいものがあってさ。買い物に付き合ってくれないかな」
「別にいいけど」
ユイトが承諾すると、奏一は嬉しそうに笑ったので、不覚にもまたしてもドキリとした。そして、奏一は地味だと思っていたが、実は顔が割と格好良いことに気付いてしまった。あまり顔をマジマジと見ていたわけではなかったから、今までさして気にしていなかったのだ。
「……」
「じゃ、行こうか」
「あぁ……」
二人で訪れたのは、ビルに入居しているチェーン展開の雑貨店だった。店内の規模が大きく、ビルの数階がその店で占められていた。様々な物が売られているので、初めて訪れたわけではないものの、ユイトも目移りしてしまう。
奏一は文房具を買いたいと言って、熱心に品定めをしている。
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