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第12話
しばらく経ち、奏一から「お待たせ」と声をかけられたので、二人してレジに向かう。奏一はカゴに色々と文房具を入れていた。
「……それ、もしかして仕事で使うの?」
珍しくユイトから聞いてみる。
「あぁ、うん。職場でも文具は揃ってて自由に使うこともできるんだけどね。
使い勝手の良いものとか、自分で用意して使いたいんだよね」
「なるほどな。自分にとって便利なアイテムとかあるよな。公務員だと、文房具は重要っぽいし、拘る部分もあるってことか」
「まぁね。今は芯が折れないシャーペンとか、好きなサイズにカットして使える付箋とかね、色々あるんだよ」
「そうなのか?進化してんだな。シャーペンの芯なんてボキボキ折れるのが普通だったのにな」
「そうなんだよね。凄いよね、ホント……あれ、それ買うの?」
奏一は、ユイトが左手に持っていた品に目を留めた。
「あぁ、これ名刺入れ。一年くらい使ってるのがあるんだけど、買い換えようと思って」
「そっか。商売道具の一つってわけか……」
「まぁ……どうしても、名刺交換とかしないわけにはいかないからな……」
「仕事上大事なことでしょ?さ、会計しようよ」
「あ?あ、あぁ」
話ながら広い店内をレジに向けて歩いていたら、いつの間にかレジに到着していたようだ。
「ユイト君さ、いつもきちんと食べてる?」
雑貨店で会計を済ませ、再び二人で街を歩いている時に奏一が不意に聞いてくる。
「何?いきなり。オカンか何かかよ」
少しだけ煩わしく思うが、奏一はユイトのことを心配してくれているのだろうかと思われた。
「いや、君の職業柄、食事ちゃんとしたもの食べてるのかなって思ったからさ」
「あー……アンタの想像通り、大したもん食ってないかな。コンビニ弁当とか、たまに出前そば、カップラーメンとか……」
そう説明しつつ、自分の食生活を振り返ると、本当に不健康そうだなとつくづく感じられる。
「なるほどね。自分で作んないんだ?」
「何か……自分のために作るの面倒だから……」
「そんなんじゃ体に悪いよ?食事はきちんとしたもの摂らなきゃ……あ……」
奏一は、自分で言いながら何かに思い至ったような顔をした。
「何だよ……」
何を言い出すのだろうと、ユイトは何となく少しだけ身構えた。
「じゃあさ。こうしないか?俺の家に時々でも飯食いに来るとか」
「……は?」
ユイトは思わず素っ頓狂な声を上げる。
「一応俺、何年も自炊してるし、少しなら作れるよ?まぁ、口に合うかはわからないけど。
休みの日とか、都合のいい時だけでもいいんだ。ほら、一人で食べるより誰かと食べた方が楽しいって言うし」
「まぁ……たまに一人で食ってると淋しくなる時もないわけじゃないけど……」
「だろ?金曜休みだったっけ?じゃ、来週の金曜は?」
最初に奏一と会ったのが、休日の金曜だったろうか。そのことを覚えていたのか。
奏一は、ユイトの反応がさほど悪くないと分かると、日程を詰めようとしてきた。
「え?あ、まぁいいけど……特に予定もないし……」
本来なら、大して知りもしない人の家に行くなんてユイトとしては有り得ないことだ。しかし、奏一の申し出は素直に受け入れてしまった。
「そう?じゃあ……ユイト君て、食べ物は何好きなの?」
「……シチュー。クリームの」
それはごく自然に口をついて出た。
すると、奏一は意外そうにユイトの方を見つめた。そして、優しげに目を細める。
「シチューか。そういや俺もずっと作ってなかったかも。わかった。金曜の夜にウチおいで」
「あんた……良く知りもしねぇ俺を部屋に呼ぶの、抵抗ないわけ?」
「はは。君なら大丈夫だよ。問題ない。君のこと、これから色々知りたいなって思ってるから」
そんなことを言って、奏一は二コリと笑った。
「あ……もしかして、君の方が俺のところに来るのダメだった?」
「いや……俺も、あんたなら平気」
ユイトは自然とそう思えた。
「じゃあ、七時頃にさ、俺の家の方の駅で待ち合わせようか」
「別にいいけど」
そう話しながら歩いていたら、いつの間にか奏一が電車に乗る駅に辿り着いた。大きな路線ではないが、二駅先が奏一の住むエリアなのだと言う。
ユイトが住んでいるのは、今いるこの場所から一駅先なので、割と近いと言える。
「もう、用はないのかよ」
「付き合わせてごめんな。じゃ、来週ね。あんまり飲み過ぎないようにね」
そう言って、手を振りつつ奏一はその日帰っていった。
奏一は心配してくれているようだが、こうして心配してくれる人もいなかったし、少し嬉しく思う。
日も徐々に傾いてきたし、ユイトもそろそろ出勤することにした。けれど、いつもより僅かながら足取りが軽くなっていることに、気付かないでいた。
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