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第20話
「全然かかんないねー」
奏一が苦笑する。
「あぁ。もしかしてさ、ここがだめなんじゃねぇ?」
「うーん……あ、そうだ。ボート借りようか」
「ボート?あんた漕げんの?俺漕げねぇよ」
「大丈夫、俺漕げるよ、任せて!」
それから二人はボートの貸小屋に行き手漕ぎボートを借りた。
自分から言うだけあって、奏一の操縦は上手だった。変な方向に向かうわけでもなく、真っ直ぐに進んでいった。こうして二人でボートに乗っていると、何だかデートみたいだと思ってしまう。単に釣りに来ているだけだが、傍から見たら変に見えないだろうかという、いらない心配までしてしまいそうだ。
その後は、二人とも一匹ずつ釣り上げた。しかし、ほどなくしてユイトに異変が現れた。
「気持ち悪い……」
ユイトはボートに酔ってしまったのだ。たかがボートと言っても、手漕ぎボートで酔ってしまう人もいる。ユイトは、それに当てはまってしまったらしい。
「え?大丈夫?もしかして酔った?」
「あぁ……吐くまではいかないけど、ムカムカする」
「それはまずいね。岸に戻ろうか?」
せっかくボートまで出してここまで来たというのに、ここで戻るのは申し訳ない気がした。
ユイトとしても、もっと奏一との時間を楽しみたかったのだ。
「一匹ずつ釣れたし、俺は大丈夫だよ。でも、君がもっと具合悪くなってしまったら大変だろう?いいね、帰るよ?」
有無を言わさない調子で言われたので、ユイトは頷いた。
「悪い、迷惑かけちまって……」
「いいって。君の体の方が大事だから」
奏一の心使いに胸が締め付けられそうだ。
それからボートで岸に戻り、車で奏一の実家に立ち寄った。すぐに車で一時間も乗っていたら、ユイトの気分も余計に悪くなってしまいかねないため家で休むことになったのだ。
奏一の家では、両親は出掛けているからということでリビングに通され、市販薬の酔い止め薬をもらって飲んだ。酔ってしまってからでも効果はないわけではないらしい。すると、しばらくすると気分も大分落ち着いてきた。
酔いも収まったら、ユイトにはある好奇心が湧いてきた。実家には卒業アルバムがあるかもしれないと思ったのだ。学生時代の奏一を、少しでも覗くことができるかもしれないから。
「なぁ。卒業アルバムってないの?高校のとか」
「あぁ。それなら俺が使ってた部屋にあるよ。見たい?まぁ、恥ずかしくはあるけどね」
「……まぁ、もしよかったらでいいんだけど……」
「わかった。じゃ、待ってて。持ってくるから」
そう言うと、奏一は直ぐに二階に向かった。
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