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第24話

「わかった。なるべくアフターするようにするから」 すると、エリはさも嬉しそうに目を輝かせた。 「あぁ。もしかしたらエリさん来てくれなくなるんじゃないかと思った。けどさ、これからも俺に会いに来てくれるんなら、それくらいなんてことないよ」 ユイトは、エリを釘づけにする笑顔を見せ、囁いた。 「そろそろ出ようか。こんな時間だし」 もう夜中の一時頃である。そろそろエリを帰したほうが良いだろう。ユイトは彼女を促して店を出た。会計は全てユイト持ちである。  今日来た和食レストランはビルの三階に入っているので、エレベーターを待つことになる。エレベーターまで辿り着き、扉が開くのを待つ間にエリが言いにくそうにしながら言う。 「あの……もうひとつお願いしてもいいかな」 「なに?」 「私、一度でいいから……あなたとキスがしたい」  ユイトは困ったような顔をエリに見せた。これまで客とキスなどしたことなどなかったこともある。それに、女性とキスをすること自体が未知の領域なのだ。 「俺と、キス?」 「うん……蓮君は、あまり客の女の子とそういうことしなさそうだけど……私、あなたとの思い出にしたいの。まぁ、お店に行かなくなるわけじゃないけど……」  エリがそう言ったときに、ちょうどエレベーターの扉が開いた。  ユイトはエリの手を引いて一緒にエレベーターに乗った。そして、素早く一階のボタンと扉を閉じるボタンを押した。 エレベーターの中は二人以外誰もいない。次の瞬間、意を決してユイトはエリの唇にキスをした。ほんの一瞬の出来事だったこともあり、エリは固まっている。ユイトは、エリの気持ちを叶えてあげたいと思ったのだ。そして、仕事だということもあり、キスをした。  ほどなくして再度エレベーターの扉が開き、ユイトはエリの手を再び引いてエレベーターの外に出た。それから、「今のことは、誰にも言わないでね、二人だけの秘密」とエリの耳元で囁いた。

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