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第26話

奏一の誕生日当日は平日であり、ユイトは店が休みではなかったのでわざわざ休みを取った。理由については、まさか本当のことを言うわけにいかないので、適当に言っておいた。  ワインは、昨日のうちにオーナーにも断って自分の給料から引いてもらうことにして、入手済みである。とはいえ、そこまで高いものではなくユイトにも手の届く範囲のものだ。本当なら、奏一の生まれた年製のものを選びたかったのだが、それが叶わなかったことだけが心残りだ。 レストランで食事をすることも考えたが、家の方がまったりできるかと思い、奏一の家で祝うことにした。料理は、いつも奏一が作ってくれることも多いので、今回はユイトが作ることにした。自分が作ると奏一に告げると、彼はかなり心配そうにしていたが、任せて欲しいと頼んだのだ。こういったときくらい、自分も何かをしてみたいと思ったから。  作ろうと思ったのは、鮭の乗ったパスタだ。以前奏一が鮭が好きだと言っていたことを思い出したこともあって、クリーム仕立てのパスタにしようと思ったのだ。普段はあまり料理をしないのだが、ネットでレシピを研究し、事前に自分でも作って食べてみた。すると、なかなかに美味しかったので、自信が持てたのだ。  奏一の家を訪れる前に、プレゼントのキーケースと店から入手したワインを携えて、パスタや鮭などの材料も買ってきた。 「いらっしゃい!」  午後六時半頃、早めに仕事から帰ってきていた奏一が笑顔で出迎えてくれた。 「なんか、凄い荷物だね」  ユイトの両手には沢山の紙袋やらビニール袋やらが下がっている。 「あぁ。今日の飯の材料とかだよ」 「そっか。言ってくれれば用意したのに」 「いいよ。キッチンだけ借りられれば、俺がやるから」  そう言って、ユイトは早速調理に取り掛かった。とは言え、この頃良く来る奏一の家だとは言っても、キッチンはさすがに馴染んでいないので、多少はもたついてしまう。奏一も心配そうに少しだけそわそわとして、テーブルに着席しつつこちらの様子を窺っている。  それでも、三十分ほどもかからずにパスタができあがった。鮭の赤っぽい色に、枝豆のグリーンもあるので、色彩の良いパスタになった。  テーブルに持って行くと、奏一も一段と目を輝かせた。 「凄い!美味しそうだね。匂いもいいし」 「いや、別に凄かねぇよ……」  思わず、ユイトは照れ臭くなってしまった。 「こうして作れるんだから、普段もちゃんと作ればいいのに」  奏一はまたおかんのようなことを言う。けれど、反論するのもどうかと思い、素直に聞いておくことにした。 「そうだなー……。今後は考えてみるよ」  そう言いつつ、ユイトは冷蔵庫で一時冷やしておいたワインをもって来た。そして、二人分のグラスも用意した。 「なんかコレ、凄く高そうじゃない?」 「んーいや、んなことねぇよ。店に良いのがあったから、ツケで買ったんだ」  そして、コルクを抜くためのオープナーが必要なことにハタと気づいた。 「コルク抜くオープナーある?」 「あぁ、それならその戸棚の引き出しに……」  奏一は、キッチンの方にある戸棚を指さした。 「俺取ってくる」  そういって、ユイトは自分の家でもあるかのように、キッチンへと向かい戸棚の前に立った。戸棚の上部はガラスの引き戸になっていて、食器が収められている。さらに目を移動させると、その下の中央部分に二段の引き出しがあった。引き出しだと奏一が言っていたから、このどこかに入っているのだろう。ちなみに、引き出しの下には横開きのスライド式の収納もある。  ユイトはすぐ目に入った左端の上段の引き出しを、「どの引き出し?」と聞きつつ開けてしまった。

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