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第34話

「ま、まさか……俺の口からってことか!?」 「うん、ダメかな」  奏一は少しだけしゅんとした。余程口移しがしたいのだろうか。 「コ、コーヒーだぞ!?もし服とかに零れたらどうすんだよ」  ユイトが反論するものの、奏一はにっこりと微笑んだ。 「大丈夫。前にね、ファミレスでカップルがやってたんだよ。だから、やってみたらどんなかなって思ってさ。上手くやれば零れないから。ね?」 「そう言ったってな……俺やったことないし……」 「大丈夫だって。ほら、頼むよ……」  ユイトの体をぎゅっと抱きしめて、奏一が甘えるように請うので、ユイトは何だか断れなくなってしまった。 「わかったよ……ちょっと待ってろよ……」  奏一がぱっとユイトの体から腕を離したのを合図に、ユイトはぐるりと体をひねってテーブルに置いてあるカップを取り一口コーヒーを口に含み、またカップを戻した。あまり口に含み過ぎると失敗するかもしれないと思い、割と少な目にしたのだ。奏一は少ないと不満に思うかもしれないが、なにせこんなことは初めてするのだから。  ほろ苦いコーヒーを含んだ口を、奏一のそれに近付けていく。すると、奏一の方からユイトの頬に手を当てて自身の唇へと導く。そして、お互いの唇が重なり奏一が早くおいでとばかりに口を少し開いた。そこで持て余した腕を奏一の腰に回し、ユイトも口を開いて奏一の口内にユイトの甘味もプラスされたコーヒーが注がれた。奏一は美味しいと言ってくれるだろうか。ユイトの中で旨みが加えられた飲み物を……。  初めてした口移しは、何とか零さずにできた。そのことに安堵する。 「美味かったか?」 「うん。とっても。美味しかったよ、ユイト君のコーヒーは。でも、もっと欲しいかな。ね、もう一回やってよ」  奏一は再度おねだりをしてきた。 「仕方ねぇな……」  そう言いつつも、ユイトとしてはこうして奏一と戯れられるのなら何度だってやれるし、いつまでもこうしていたいと思う。  先ほどより多くのコーヒーを口に含み、今度はユイトの方から奏一の顔に両手を添えて、口付けた。奏一の唇は薄いユイトと違って厚みが多少ある。しかし、弾力があって柔らかい。そして、この上なく気持ちいい。 「ンっ……」  奏一の口が開きコーヒーを注ぐと、漏れた声と共に、美味しそうに喉を鳴らして飲む音が聞こえた。 「ハァ……」  まるで自分が蕩けてしまいそうなほどに、口内は苦いはずなのに甘い口づけ。こんなことを後数回ほど続けた。まるで、何かの遊びみたいに。

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