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第50話
「ユイト君、なぜ突然いなくなったの?」
直球で奏一が聞いてきた。一番聞きたかったのはこの事なのだということはわかる。
「それは……あんたの部屋で……見合い写真みたいなの見つけちまったから……」
「あぁ。やっぱりそれか。あの時、ウチに来たんだね。来るなら連絡してくれればよかったのに……」
奏一は多少納得したような顔をした。
「あの日は……あんたに言わないで料理作って驚かせようと思って、内緒にしてたんだ……悪かったよ、勝手に上がり込んで……」
「そう、だったのか……別にいいよ……でも……まさかアレ見られちゃうとは思わなかったから……あそこに置いておいたのは失敗だったかな」
奏一の目は、後悔が少し滲んでいた。黙って入ったユイトが悪いのかもしれないが、奏一自身の家とはいっても、無防備にテーブルに置いたことを悔いているのだろうか。
「そんな……悪いのは……俺なんだし、自分を責めるなよ……」
「でも、君は俺を喜ばせたくてサプライズを考えてくれてたんだろ?アレを見てしまって……嫌な思いしただろ?ごめん……」
こんな時まで、ユイトの事を気遣ってくれるのがかえって心に沁みて仕方がない。
「……」
ユイトはなんと言っていいかわからず、返答に困り黙ってしまう。
「君が見た、あの白いケースは、確かに見合い写真だよ。母が、してみたらどうだって言って寄越したんだ。俺は、いいって断ったんだけど……もう二十代も半ばを超えたんだから、会うだけ会ってみなさいと言われて……無下に返すことができなかったんだ」
「そう……だったのか……で、会うの?写真のヤツと」
何とか気分を持ち直そうとして、ユイトは途中から声の調子が努めて暗くならないようにした。
「……会うと思うの?……会わないよ。会うわけないだろ?一応写真は見たけど、何て断ろうか考えてたところだったんだ。俺は女の子を好きにはなれないし、結婚なんてできないさ。第一、君がいるのに他の人と結婚するわけがない」
奏一はきっぱりと言い切った。
「でもなんで、何も言わずに連絡を断ったの?俺が、見合いするかもと思って怒った?」
「……怒りはしてねぇけど……奏一はもしかしたら結婚して……普通の暮らしをした方が幸せなんじゃねぇかと思って……俺はすげぇ嫌だけど……例えゲイでも……結婚するヤツがいないわけじゃないらしいし……」
ユイトは俯いて呟いた。
すると、奏一がユイトの顔に恐る恐る手を触れた。
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