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二十六 何故か少し後ろめたい。

 栗原に、亜嵐から呼び出されたことを言っておこうかと思ったが、結局は止めておいた。栗原は亜嵐に協力することに否定的だったし、役作りのために俺を巻き込んだと知ったら、亜嵐に怒るかもしれない。 (まあ、俺が好きで協力するわけだし)  芸能界への興味は薄い方だが、知らない世界の話しは正直に言うとネタになる。芸能ネタBLって良いよね。イケメン前提だし奇抜な設定でも面白くなるし。 (あとで芸能モノのBL探そうかな~)  そんなことを考えながら、クローゼットに備え付けられている鏡の前に立つ。普段、ファッションなど気にする方ではないが、アイドルに会うとなったら少しは気になってしまう。俺ってば衣食住のバランスが崩壊していて趣味につぎ込んでるから、通勤服と部屋着しか服がない。亜嵐が俺を服で評価するとは思わないが、こういう時、少しくらいまともな服を持っていれば良かったと思ってしまう。 「後で栗原に、服選んで貰おうかしら……」  栗原のセンスなら、きっと俺に似合う服も選べるのだろうと思う。いつも部屋でダラダラしているばかりだが、今度誘ってみようか。 「さてと」  ファッションチェックを終えたところで、時計を見やる。約束の時間まで一時間。そろそろ寮を出るべきだろう。亜嵐に呼び出され、駅近くのカフェで落ち合うことになっている。駅に栗原亜嵐が現れたら騒然としそうだが、大丈夫なのだろうか。まあ、俺が気にすることではないか。  いざ出掛けようと部屋を出ると、丁度隣の部屋の扉が開いて、栗原が姿を現した。俺の姿に気づくなり、ふわりと笑みを浮かべる。 「あ、鈴木先輩。今、先輩の部屋に行こうと――」  言いかけて、栗原の表情が固まった。 「あ、れ? もしかして、出かけるの?」 「あー、うん」  今からお前の兄貴に逢いに行くよとは言えずに、なんとなく口ごもる。 「……俺も行っちゃ――ダメな感じですよね?」  探りを入れられ、思わず苦笑する。連れて行ったらそれはそれで面白い絵面になりそうな気もするけど、亜嵐にとっては良い結果にならなさそうだ。 「ごめんね、人と逢うんだ」 「――そう、ですか……」 (お前の兄貴とな)  内心、そう返事をしつつ、しょんぼりする栗原が可愛らしく思えて笑ってしまう。普段は強引なところもあるし、可愛げがない部分も多いけれど、こうしていると可愛い年下男子って感じだ。 「じゃあ、約束があるからそろそろ行くな~」 「あ、はい……」  栗原に別れを告げて、階段の方へと歩いていく。亜嵐は時間に余裕がないし、俺が遅れるわけには行かないからな。

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