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第8話 俺の愛しい狼
舌を絡めて互いの唾液を交換するものの、飲み込めない分が顎を伝ってシーツに落ちていく。その間もジンの指はすっかり腫れてしまった俺の乳首を器用にいじり、腕や腹を何度も撫でた。それより触ってほしい場所が疼いて腰が揺れる。
「あーもう、なんでそんなに可愛いかなぁ」
唇を離したジンが、ぺろりと舐めた指で滾りきった俺のモノにようやく触れた。
「んっ」
「腰、揺れてるよ?」
指摘されても止められない。そんな俺に「可愛い」と笑ったジンが、指の腹でカリや尿道口をスリスリと撫で擦った。そのまま竿を撫で、パンパンに張っている袋を解すように柔らかく揉みしだく。そのまま肌を撫でるように指先をゆっくりと後ろへ移動させる。
たどり着いたそこはすでに濡れそぼっていた。ぬちゅっと音を立てながら入った二本の指がクッと入り口を広げる。
「んぅっ」
熱い中に冷たい空気が触れて下腹に力が入った。それをなだめるように反対の手で腹を撫でられ、そうして入り口を何度も広げられる。
こんなことをされるのは初めてだ。解すというより広げようとしているように感じる。気持ち悪くはないが、どういうことかわからなくて少し不安になった。そうこうしているうちに、今度はくるりと体をひっくり返された。
「ジン?」
「先にしっかりマーキングしておきたいから、後ろからさせて」
仰向けになった俺の尻たぶをジンの両手が割り開いた。慌てて腰を上げると、硬くて熱い先端がキスをするように入り口に触れる。そのまま何度かヌチュヌチュと触れ、それからググーッと入り込んできた。
「……ッ」
一番太い部分が入り込む瞬間は何度シても慣れない。本来、何かが入り込む場所じゃないところに規格外の大きさのモノが入るんだから仕方ないのだろう。それなのに、最近では痛みや不快感よりも期待にゾクゾクするようになってきた。
(ジンと一つになれる)
そんないやらしい期待に体を震わせている間も熱い塊が奥へと向かっていく。まるで「これがほしかったんでしょ」と言うように、ゆっくりと狭い場所が押し開かれた。ゆっくりゆっくり進む熱が深い場所を広げ、そうして奥をトンと突き上げた。
「ぃ……ッ」
腰がブルッと震えた。まさかと思ったものの、腹の奥の痺れが間違いないと訴えている。
「……っ。もしかしてカグヤ、イッちゃった?」
言いながらもジンが腰をグンと突き上げた。
「ひゃッ」
「んっ、やっぱり軽くイッちゃったのか。……どうしよう。可愛くて、これ絶対に止まらなくなるやつだ」
背中にジンの体温を感じる。ぴたりと覆い被さっている感触が気持ちよくてうっとりする。思わず「はぁ」と甘いため息をもらすと、耳元で「ごめんね」と囁かれた。
「どういうことだ?」と思ったのは一瞬だった。直後にドチュンと音がしそうなほど腹の奥を抉られて「ひィ……ッ!」と悲鳴が漏れる。
「ちょ、待って……ィッ!?」
「ごめん。今日は全部、入れたいんだ」
「ジン、待て、ま、ヒッ、ぐ、ぅ……ッ」
「大丈夫、いまのカグヤなら俺のモノも全部飲み込めるくらい、柔らかくなってるから」
「ジ、ン……ッ! や、それ以上、むり、む……ッ、ひィッ、ぐ、か……ッ、は……!」
「く……っ。ふ……ね、ほら、すごく奥まで、ン……深いところで繋がってる」
「……ッ」
言葉が出なかった。悲鳴さえ漏れない。ジンが言うとおり、いままで感じたことがないくらい腹の奥のほうにジンの滾ったものを感じる。途中、何かを突き破るような感覚がして腹が破れたのかと思った。
あまりの衝撃に涙が出た。でも嗚咽は漏れなかった。ただ涙があふれて止まらない。
(初めてのときだって、こんなに涙出なかったのに)
俺はどうして泣いているんだろう。苦しいから? つらいから? そうじゃない。これはそういった類いの涙じゃない。
(ジンと……体の深いところで繋がっているのが嬉しいんだ)
そう思った途端、ジンを咥えているところがキュゥンと切なく窄まった。
「んッ! ちょ……っと、いまのは危なかったかも」
甘いため息をついたジンがペロペロと俺の耳を舐めている。
「カグヤのここ、すごく上手に俺のを食べるようになった」
「んっ!」
「しかも、俺の全部を食べてくれる」
低く甘い囁きに、また後ろにキュウッと力が入る。
「んッ、はは、カグヤったら可愛いなぁ。ねぇカグヤ、今日は一番奥で出したい。ね、出していいよね?」
耳たぶを囓りながらそんなおねだりをされたら腰が抜けるに決まっている。何とか踏ん張っていた足から力が抜け、ベッドにぺたりと下半身が落ちてしまった。
「ね、一番奥に、たくさん出していいよね?」
いやらしいことを囁きながらジンが腰を回したり押しつけたりしている。その動きで俺のモノがベッドに擦りつけられ、何かが少しだけ漏れた。
(ジンが、ほしい)
そう思った。いつも抱き合っているときよりも強烈な感情が膨れ上がっていく。この体の全部を使ってジンのすべてを手に入れたい、そんな気持ちで胸がいっぱいになった。
「んなの、いいに決まってる、だろ」
「……ありがとう」
ため息のようなジンの声に力が抜けた。その瞬間を狙っていたかのように腰をググゥと押しつけられる。そのまま奥をつつくように小刻みに動かし始めた。
ズチュン、ヌチュウゥゥ、グチュン、ブチュゥ、グチュヌチュ、ズチュウ、ジュボチュポ、ブチュウッ。
段々激しくなるいやらしい音に体が熱くなる。ベッドとジンの間に完全に挟まれている俺は、ただジンの動きに合わせて振り回されるだけになる。
「カグヤ、俺の、いっぱい受け取ってね」
グーッと腰を押しつけられ、尻たぶにジンの下生えを感じた。信じられないほど奥深くで熱い塊が脈打っている。
うなじに熱い吐息がかかった。触れるようなキスをされ、それからちゅぅっと吸われる。気持ちがよくて「ぁ」と声が漏れた直後、ものすごい痛みがうなじを貫いた。
「ひ……ィッ!」
ジンが、うなじを噛んでいる。噛みながら、腹のものすごく深いところで射精している。しかもビュルルルなんて音が聞こえてきそうなくらいの勢いだ。吐き出されたものが内蔵のあちこちにぶつかるのまで感じた。それを、俺の体は嬉しそうに飲み込もうとしている。
ビクン! ビク、ビクビク、ブルッ。
背中が激しく震え、腰が何度も跳ねた。そんな俺のうなじをジンは噛み続け、のし掛かるように押さえつけながら延々と俺の中で吐き出し続けている。
不意に入り口がぐぐぅと広がるのを感じた。まるで風船が膨らむようにどんどん広がっていく。
(尻が、裂ける……!)
咄嗟にそう思った。そう思うくらい広がっている。それが苦しくて、でも腹の奥は気持ちがよくてわけがわからなくなる。
ジンの射精が終わる頃、俺の意識は朦朧としていた。それでもヒクヒクと腰が震えていることだけは何となくわかった。
「絶対に離さないからね」
ジンが何か囁いている。うまく聞き取れなかったが、甘い声の中に怖いくらいの熱を感じる。「こういうジンも悪くない」と思いながら、俺の意識は電池が切れたようにストンと途切れた。
その後も、俺が気を失うたびに突き上げられて起こされた。そうして深いところを貫かれて注ぎ込まれる。三度注がれたときも尻孔が苦しくなるほど広がるのを感じた。そのうち目を覚ますこともできなくなり、俺は完全に意識を失った。
翌日、またしても俺はベッドの住人になっていた。腰どころか全身がうまく動かせないのを見たジンが、甲斐甲斐しく世話を焼いたのは言うまでもない。
「ねぇ、今夜はダメ?」
あの日以来、ジンは結構な頻度でシたがるようになった。以前も性欲が強いなと思うことはあったが、気を許すと一日中シたがる。さすがにそれは勘弁してほしいが、大きな体を少し屈め俺の顔を覗き込むように尋ねられると嫌だと突っぱねるのは難しい。
(しかも眉まで下げるなんて)
俺がこの顔に弱いことがわかっているに違いない。
「明日はビーチ、行かねぇぞ。作るほうの作業を少し急がないといけないんだよ」
「ビーチなんて関係なく俺がシたがってるって、わかってるくせに」
拗ねたような口振りだが灰褐色の目は優しく笑っている。
「俺たちは相思相愛のつがいなんだから、毎日だって愛の営みをしたくなるのは当然だと思うんだ」
愛の営みなんて言葉を素面で使う奴がいるとは思わなかった。聞かされる俺のほうが気恥ずかしくなる。
(しかも、相変わらずつがいなんて言いやがるし)
俺はジンが狼だと信じちゃいない。あれだけ噛まれても琥珀色の目を見ても、それに亀頭球だとかいうモノを見せられても信じられなかった。
ジンが吐き出すとき、尻孔が膨らんだように感じたのはこの亀頭球のせいだった。射精のときに根元が膨らんでこぼれないように栓の役割を果たすらしい。
(たしかに、あんなものが普通の人にあるとは思えないけど)
でも、見せられたのはシている真っ最中の一回だけだ。相当興奮しないと現れないとかで、普段勃起した状態で見たことはない。だから信じていないというのもある。
「あまり噛まないように気をつけるから」
なるほど、ジンは俺がうなじを噛まれるのが嫌で行為を渋っていると思っているらしい。
たしかにうなじを噛まれるのは痛い。最中はどんなに噛まれても気にならないが、翌日はまぁまぁの痛みを感じる。それなのに鏡で見てもそれほど濃い痣になっていないのが不思議だ。
「ね、ガグヤ、やっぱりダメ?」
それにしても、これほどしつこく言ってくるのは珍しかった。俺が仕事だと言えばいつも諦めるのに、今日はやけに食い下がってくる。
(ったく、どうしたってんだよ)
ここで甘やかしたら駄目だと口を開きかけたとき、甘い果実のような香りがふわっと鼻に入ってきた。
(この匂いって……)
いつも香るものじゃない。香水の類いの匂いでもない。そして、この匂いがするときは今日みたいにジンが引き下がらないときだ。
(これが発情の匂いだったりしてな)
もしジンが本当に狼だとしたらフェロモンのような匂いがしてもおかしくない。ジンいわく、狼のつがいになった俺もそういう匂いがするようになるそうだ。
(ま、そんな話信じちゃいないが)
信じていなくてもこの匂いは駄目だ。少し嗅ぐだけで体が火照ったように熱くなる。男の俺でも、どうしようもなくジンのものがほしくてたまらなくなる匂いだった。いまも少し嗅いだだけなのに、前がゆるく勃ち上がって後ろはそれ以上にヒクヒクと反応してしまっている。
「カグヤ?」
俺を覗き込むジンの目が変わった。さっきまでの灰褐色じゃなく、白目がない琥珀色に変わっている。そうして中央の黒目は爛々と光っていた。
その目を見ると腹の奥がカッと熱くなった。この後のことを期待して吐き出す息まで熱くなる。
「ちょっとは手加減しろよ」
そう答えると、ジンがふわりとした笑顔を浮かべた。
「うん。俺がどれだけカグヤのことを好きか、いっぱい教えてあげるね」
きっと俺は明日の朝までジンを受け入れることになるだろう。そう思うだけで腹の奥が疼いてくる。ここにジンを迎え入れるんだと訴えるような感覚に背中がゾクゾクした。
(ジンが何者だろうと関係ない)
たとえ本当に狼だったとしても関係ない。俺は目の前にいるジンが好きだし、これからもずっと好きで居続けるだろう。
そう思いながらジンの背中に腕を回し抱き寄せる。束ねた髪の毛を指先で撫でながら、熱い唇に吸いつくようにキスをした。
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