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12:週末占い師 in沖縄

 沖縄に来た。 「あー、沖縄支社……なんか。凄いなぁ」  俺はフカフカのホテルのベッドに横たわりながら深く呟いた。  そう、沖縄プロジェクトのメンバーはそりゃあもう凄かった。なにせ、全国から集まったエリート達により、年間計画、業務指標、日々の業務の全てにテコ入れが行われているのだ。  ここは戦場だ。  聞こえてくるのは、怒鳴り声しかない。 『この外回りに対する、フィードバックはどうなっている?は?やっていないだと。笑わせるな!やりっぱなしにしているから成績が上がらないんだ!』 『適当な営業をかけさせるな!時間の無駄だ!全部をマニュアルに則れ!我流!?成績の上げられないヤツの我流はサボリと同じだ!今日から毎日各課でシミュレーションの場を設けさせる!いいな!?』 『前年度四半期成績を目標にするな!ケツのお前らが目標にすべきは、まず最低ラインの営業成績に届かせる事だ!ゴミをゴミと比べるな!無意味だ!』  ちなみに、コレ。全部同じ人物の台詞だ。 「……コレじゃ、気付かないよ」  誰に言うでもない言葉が、ボソリと口から漏れる。  会議で飛び交う意見は苛烈を極め、下手すると喧嘩になるのでは?という程の激しいモノも多かった。まぁ、コレはうちのプロジェクト会議でもよく見られた光景だ。優秀な人間とは、得てして他人にも自分にも厳しい。厳し過ぎる上に、言葉も足りない。 『もう、急に仕事のやり方が変えられてキツい……』 『外から来たヤツらに、何が分かるんだよ』 『数字だけじゃ見えない問題があるのに』  元居たスタッフ達は目まぐるしく変化する状況と、突然外から現れたスタッフの無理難題とも言える指示に、日々不満と疲弊を募らせていた。  その中に、俺は居た。 「何で俺は、ここに居るんだろう……?」  沖縄支社に来て数日。  俺は会議に参加し、特に生産性も何も無い意味のない言葉を会議の合間に挟み、元居た他のスタッフの話を聞いているだけ。  本当に俺がやっているのは、ただソレだけだ。  俺に、存在意義はあるのだろうか。 「……週末、どうしようかな」  ふと、声に出して口にしてしまう。わざとだ。本当はどうしようか決めている。もちろん、沖縄観光……を、するワケじゃない。  俺はベッドの上に寝転びながらスマホを頭上に掲げた。そこには、しばらく予約を取る予定のなかった「手繋ぎ占い」の予約フォームがある。 「……やっぱり」  見上げた先には、朝から晩までズラリと並ぶ「予約」の文字。  ちゃんと住所は沖縄に変えてある。市内で唯一、直前でも予約が取れたブースは完全な個室のみだった。お陰で一日のレンタル料が高くついた。でもいい。予約料に上乗せしたから。  三十分、二万円。  それなのに、まさか。土日全部が埋まってしまうなんて。 「……冗談、のつもりだったんだけどなぁ」  ちょっと、試したくて表示した価格設定。でも、お陰で先程まで感じていた「自分への希薄な存在意義」が満たされるのもまた事実だ。 「三十分、二万円でも……俺が必要って事だよな」  だとすれば、相手の満足のいくサービスを提供出来れば問題ない。そう。サービスの値段というのは、常に 「“相手の欲求”により決まる」  “あの人”の、俺の三十分に対する欲求は二万円でも購入する価値に値するらしい。  俺はスマホをベッドの上に放り投げると、スーツのポケットに入れっぱなしになっていたリボンを取り出した。 「目隠しは、一応しとこう」  どうせ、隠していても隠していなくても、俺には見えていない。だとしたら、いつも通りやればいい。  目隠しをして、手を繋いで。相手の望む事を“最後”に言う。コレだけ。  それが、俺の占いのスタイル。  いつものソレを、俺はやるだけだ。

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