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22:運命だから⑥
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三久地先輩は、手つなぎさんだった。そう、手つなぎさんの親指にも、昨日の三久地先輩と同じ場所に傷があったのだ。
『手つなぎさん、この傷。どうしたんだ?』
『昨日。ちょっと紙で切ってしまって……』
『へぇ、そうか』
予想はしてた。だから、別に驚きはしなかった。薄っすらと親指に入った傷を、俺は指でスルリと撫でる。
『んっ、ちょっ。……っぁ、ジルさん、痛いです』
『あぁ、悪い。こうして手を繋いでいると……当たってしまうんだ』
『ひっ、んっ』
『……絆創膏を貼らないのが悪い。貼るように言ったじゃないか』
ねぇ、三久地先輩?
しかし、その後。俺がどんなに三久地先輩の前で自らをアピールしても、ちっとも俺には気付いてくれなかった。
正直、三久地先輩と違って、俺には特徴がある方だと思っていたが、彼の前だと、どうやら俺は有象無象と何ら変わらないらしい。
『すみません、ジョーさん。どちらかのプロジェクトで、仕事が被ってたりしましたか?その場合、行く前にちゃんと引き継ぎを……』
俺は、三久地先輩にも、手つなぎさんにも、ずっと負けっぱなしだ。
負けず嫌いの俺にとって、ソレは悔しいようで、何故だかとても嬉しかった。
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「ん、ぅ……」
「……手つなぎさん?」
穏やかな寝息が聞こえる。西日が眩しいのか、目隠しの取れた顔を隠そうと、俺の体に擦り寄ってくる。
「あぁ、堪らないな」
その寝息に、俺はぼんやりと天井を見上げた。もうすぐ、予約時間が終わる。それなのに、俺と手を繋ぐ相手は、未だに服一つ纏っていない。まだ、しばらくこうしていたい。
「いい」
自分に、こんな穏やかな情事の後が訪れるなんて思いもしなかった。なにせ、いつも番とのセックスの後は、泥のように眠り、目を覚ましても再び互いのフェロモンに当てられ、体を求め合うような激しいモノしか体験してこなかった。
発情期が終わる頃には、お互い体はボロボロ。正直、きつくて仕方が無かった。
けれど、今はどうだ。
-----ジル。仕事もあるんだ。恋愛なんて、気楽にやろうよ。
「……気楽だ。それに、なんだか楽しかった」
こんなのセックスで良いのだろうか。もっと、ちゃんとすべきでは。ふと、過った考えに懐かしい声が響いた。
------ジルは本当に真面目だね。
アイツからも同じように言われていた。アイツも元ベータだ。自分では意識した事は無かったが、どうやら、俺は真面目らしい。
知らなかった。番ったら、幸せにしなければならないと思っていたし、最後まで添い遂げる覚悟が要るのかと思っていた。でも、そんなに深く考えなくていい。
「苦しくなったら離れればいい、か。いいな、ベータの恋愛は……こんなにも気楽なのか」
「……ふふ」
微かに聞こえてきた笑い声に、隣で眠る“運命”ではない相手を見下ろした。
すると、そこには擦り寄って来た拍子に、俺の右手に手を添える手つなぎさんの姿があった。起きたワケではないようで、楽しい夢でも見ているのか、口元が微かに微笑んでいる。次いで、その口元から更に楽し気な声が漏れ出た。
「……じる。きもちぃ」
「なんだ。夢でも、俺とセックスしてるのか」
でも、さすがにもう勃たない。
俺は手だけをしっかりと繋ぎながら、眠る相手に、先程までの情事の姿を重ねた。
『っぁん……じる。もっと』
耳の奥に響く甘い声に、静かに手つなぎさんのうなじを撫でた。そこには、俺の歯型の痕が幾重にも重なって残されている。
噛んでも番にはなれない相手だが、俺は何度も何度も彼のうなじを噛んだ。
「あー、幸せだ」
ふと漏れた言葉に、俺はハッとした。
どうやら、俺は「運命」と番わなくても、幸せになれたらしい。
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