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ちゅ、と控えめな音を鳴らして唇が離れると、仁のいつになく真剣な眼差しが俺を捉えた。
「綾、·······俺じゃ、駄目か」
「···············え」
もしかして仁は、俺のことが好きなのか?一体いつからなのだろうか。
「·····昨日は悪かった。翠にからかわれて腹が立って、嫌な態度をとった」
嫌われていたわけではないことにひとまずほっと息をついた。
だがまさか告白されるなどと、昨日の俺に言っても信じないだろう。
ーーなにを、迷うことがあるんだ。
俺は、仁のことが好きなはずだ。まさか仁から告白されるなんて、願ってもないことだろう。
「·····え、と··········」
「うん」と、ただ一言だけ言えばいいんだ。
なのに、俺を呼ぶ翠の顔が脳裏にチラついて、その簡単な言葉は喉奥に絡めとられてしまった。
翠ではない香り。翠よりも少しがっしりとした体つき。
違う。俺が、求めているのはーー
気付けば俺は、仁の胸を押していた。翠のせいだ。全部、全部。
「··········ごめん、仁。俺·····」
「綾········」
仁は目を伏せ、俺を呼ぶ声には力がなかった。仁を拒否するなんて、自分でも驚いている。でも今は仁のことよりも、先ほどの翠の言葉が気になって仕方がなかった。
翠に会って、翠に対する俺の気持ちを確かめたかった。
「俺、翠と話してくる········っ」
俺の背に手を伸ばす仁に後ろ髪を引かれながらも、仁を押し退けた俺は、家を飛び出した。
翠と仁の家に戻り、玄関で呼吸を整え、ゆっくりと扉を開ける。
するとそこには、玄関先で座り込んでいる翠の姿があった。
扉の開く音にぴくっと体を揺らした翠は、ゆっくりと顔を上げた。翠の綺麗な瞳と目が合うと、心臓がどくどくとうるさく脈を打ち始めた。
顔全体が熱くなり、翠の顔が上手く見れない。
ーーー俺、翠のことが、好きだ。
この時、確証が確信に変わった。
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