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唇が離れ、俺達の間を再び沈黙が襲った。そしてその沈黙が破られたのは、翠の突拍子もない一言だった。
「·····ね、何となく気付いてたけどさ、綾人くんって俺のこと好きなの?」
「えっ··········」
確かに、言葉にしたことはなかった。だが俺の言動でもう伝わっているものだと思っていたので、改めて口にするのはかなり恥ずかしいんだが。
「··········俺さ、こう見えて申し訳ないと思ってるんだよ。仁くんにも、綾人くんにも」
口ごもっていた俺を見る翠は、目を伏せながら静かに口を開いた。その細い声は、僅かに震えていた。
「本当なら、綾人くんと仁くんが付き合うはずだったんだ。それを俺が壊した。本来なら、二人がーー·····」
俺よりも大きな体。だが、今は小さく見えた震える体を、抱き締めずにはいられなかった。遠慮がちに俺の背に回される手は、先ほどよりも少し冷たかった。
「·····あ、やとく··········」
「ばか。俺もだけど、お前も意外と鈍いな」
くすくすと笑うと、翠はむっと口を尖らせた。つんっと上を向く唇が可愛らしくて、思わず柔く口付けてしまう。
だんだんと赤く染まっていく翠の耳に思わず頬を緩めると、翠はまたも唇を尖らせてしまった。
「···俺さ、翠に初めて触られた時、不思議と嫌じゃなかったよ」
「············え、」
「それに今は翠が好きだ。前は前。今は今だろ」
「でもーー」
「翠」
翠の頬を両手で包むと、逸らされていた瞳が合わさった。綾人くん、と戸惑いながらも小さく呼ぶ翠の声は、またも震えていた。
「翠と二人でいる時間が増えたから、翠の良いところに気付いて好きになったんだ。今回のことがなくても、俺はその内翠のことを好きになってたと思う」
だから余計なこと考えんなよ、と笑顔を翠に向けると、翠の瞳が徐々に赤みを帯びていくのが分かった。
「········翠、泣いてる?」
「っな、泣いてるわけないじゃん·······」
するとごまかすかのように手首を掴まれ、ぐっと引き寄せられてしまう。互いの息が当たり、鼓動までも聞こえてしまうんじゃないかと思うほど、その距離は近かった。
まつ毛がかすり、視線が絡まり合う。そして、気付けば縮まっていたその距離。
互いに吸い寄せられるように唇が合わさると、もう、何も考えられなくなってしまった。
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