1 / 4
第1話
雨は嫌いだ。
視界が滲む。
匂いが濃くなる。
「ああ……こいつか」
濡れた髪をかき上げながら黒髪の青年はターゲットへ視線を向ける。
「来世ではいい人生を」
そう呟き、また一人の命を奪う。
耳にかけた黒い通信機に指を添える。
雨音混じりのノイズと共に数秒後、低い男の声が響く。
『―どうだ』
目の前に転がる死体を見つめると、黒いブーツは返り血に静かに濡れていた。
「……任務完了」
その声に感情などはない。
『一分もかかってないな』
「……殺すだけだろ」
青年はたばこに火をつける。
濁った空を見つめ、吐いた煙は霧に紛れるように空へと溶ける。
『図に乗るな。影祓【ヤツ】らはもうここまで来てるぞ』
「……めんどくせ。わかってるよ」
そう言いながら、青年の赤い瞳は退屈そうに細められる。
この程度の任務では、なにも満たされない。
通信機のスイッチを切り、この感情を揉み消すかのように煙草を踏みにじる。
「……殺るならもっとクズよこせよ」
そう吐き捨て、青年はその場を後にしようとする。
―みーつけた。
「……!」
耳元へ直接落とされたような声に、青年の足は止まった。
自分としたことが、気配に全く気付かなかった。
聞こえるのは雨の音と、木々が揺れる音。
ゆっくり振り返った先。
黒い傘を片手に、白髪の男が柔らかく笑っていた。
「探してたんだよ。希咲染 くん」
優しげな声とは裏腹にその目は酷く冷たかった。
―青年、染は白髪の男から視線を逸らさないまま僅かに目を細めた。
―探していた。
その言葉が引っかかる。
まるで最初から自分を知っていたみたいな口ぶりだった。
「……誰だ」
低く問いかける。
「これからわかるよ」
白髪の男はそう言って、ゆっくり傘を傾けた。
パラ、と雨粒が滑り落ちる。
その動作ひとつでさえ妙に絵になっていて、染は無意識に眉を寄せた。
気に食わない。
この男からは〝隙〟が感じられなかった。
男は柔らかい笑顔を浮かべながら、死体へと視線を落とす。
「聞かなくてもわかるけど、これ殺ったの染くん?」
死体を黒い傘の先端でつつくと、地面へ広がる血溜まり。
あの冷たい目は、またこちらへと向いた。
「俺がした」
大体この男が何者なのか見当はついてはいたが、この男から感じる肌へ突き刺さるような圧が異常だった。
―きっとこいつは……
「……影祓 か」
ぽつりと落とした声に、白髪の男は少しだけ目を見開いた。
「ばれた?」
この笑顔の裏にはどんな闇が隠されているのだろうか。
「自己紹介、まだだったね」
男は傘を持っていない方の手を軽く差し出す。
「染くんの想像通り、僕は影祓。東雲 莉珠 」
雨音の中、その名前だけが妙に鮮明に響く。
「で、染くんの敵ってこと」
その瞬間、染の赤い瞳が鋭く細まる。
先程までの軽い空気が嘘みたいに、張り詰める。
「へえ」
染はゆっくりと口角をつりあげた。
「じゃ、今から殺し合い?」
「んー、それでもいいよって言いたいところだけど」
莉珠もゆっくりと口角をつり上げる。
「意味のない殺し合いを染くんはできるの?」
まるで心の奥を見透かしたようなその言葉に、染は無意識に眉を顰めた。
ともだちにシェアしよう!

