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プロローグ

「お前が一人前の医者になったら……いや、今すぐにでも所へ嫁に来い」 「よ、嫁に……?」 「そうだ。いくら鈍感なお前でもわかるだろう?」  クイッと顎を持ち上げられて、強引に視線を合わせられる。 「な、成宮(なるみや)先生……」  その、見たことのない真剣な表情に、俺は思わず息を飲んだ。 「これは、プロポーズだよ」 「……プロポーズ……」 「そうだ。俺が一生かけてお前の世話をしてやるから、黙ってさっさと嫁に来い」  その不敵な笑みに、俺の思考回路が崩壊するのを感じた。    だって、こんなことが現実に起きるはずがない。  なぜなら、目の前で俺にプロポーズしている人物は、容姿端麗、頭脳明晰。泣く子も黙る小児科の若きエース。スーパードクターの成宮 千歳(なるみやちとせ) だ。  そして対する俺は、何から何まで平均的で、平凡過ぎる程平凡な成人男性である。  俺達を例えるならば、俺が河原に落ちている石ころなのに対して、成宮先生は高級デパートの宝石売り場に並んでいるダイヤモンド。  そんな天と地の差がある俺と成宮先生が恋人になるなんて、ましてや嫁なんて、本当に有り得ない。  有り得ないのに……。  俺は、今、罠を目の前にした兎だ。この罠の餌は世界で一番邪悪で最強だけど、最高な餌……入ってはいけないとわかっているのに、踏み入れようと足が動いてしまう。  でも、なんでだろう。この罠から、一生逃げ出したくない。もっともっと、キツく締めて……もう、ここから絶対逃れられないくらいに。 「(あおい) 、嫁に来い……」  俺は、一瞬で甘い罠の虜になってしまった。

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