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ハイスペックな彼氏⑦

「自分だけ気持ち良くして貰って寝ちまうなんて、最低だろ……」 「す、すみません」  朝目が覚めた時には、俺はベッドに寝かされていて、隣には成宮先生の姿はなかった。俺より先に起きて、朝食を作ってくれていたらしい。 「あの後、俺がどうしたとか気になんないの?」  昨日のあの優しい笑顔は、やっぱり気のせいだったのだろうか。朝食を食べながら、早速いつもの嫌味タイムが始まった。  そりゃあ、一人だけ気持ち良くしてもらって寝ちゃったのは本当に申し訳なく思ってるけど……仕方ないじゃん。疲れてたんだもん。心の中で、盛大に言い返した。 「あ、あの後、成宮先生はどうされたんですか?」 「仕方ないから、葵の寝顔見ながら一人寂しく……」 「え!?本当ですか!?」 「嘘に決まってんだろ?変態じゃあるまいし」 「うっ……」  お前は馬鹿なのか……そう言わんばかりの冷たい視線に、思わず言葉を詰まらせてしまった。そんな俺を、ニヤニヤと意地の悪い顔をしながら、実に楽しそうに眺めている。  なんでこの人は、こんなに性格が悪いんだろう。 「ほら早く飯食っちゃえよ。遅刻すんぞ?」 「あ、はい!」  出された目玉焼きを慌てて口に運ぶ俺を見て、やっぱり意地悪く笑っている。 「それからさ……」  成宮先生が立ち上がって、俺の首筋を指でツンツンと軽くつついた。 「ここ気を付けてね」 「え?」 「キスマークがあるから」 「はぁ!?」  俺は咄嗟に首筋に手を当てる。今の俺は、きっと顔を真っ赤にして、さぞやマヌケな顔をしていることだろう。 「全然気付かなかった……」 「フッ。不細工だなぁ。お前は本当に隙だらけなんだよ」  結局は成宮先生にからかわれて、いい玩具にされてしまう。悔しいけど、彼の望んでいる反応をしてしまう自分が、情けなかった。 「可愛い看護師さんと、イチャイチャしたお仕置だよ」  シレッとそう言い放つと、食器をシンクへと運んで行ってしまう。 「ほら、食器洗うからさっさと持ってこい」 「は、はい」 「あ、お前……また食べこぼして。ガキかよ」 「すみません」 「ほら、シミになるから脱げ。マジで手がかかる奴だなぁ」  俺のシャツを脱がせて、洗面所で揉み洗いをしているようだ。水が流れる音が聞こえる。  また朝から怒られてしまった俺は、大きな大きな溜息をついた。  どうしてこんなにも、成宮先生は厳しくて怖いのだろうか。しかも、俺限定で。  他の人には、いつも笑顔で、物腰も柔らかくて、あんなに優しい表情をするくせに……。誰かを怒ってるとこなんか見たことがない。  それなのに、俺の前では、ニヤニヤ笑うか仏頂面しか見せてくれない。みんなが大好きな、成宮先生が俺の前では影を潜めてしまうのだ。  俺にしてみたら成宮先生は(恐らく)恋人だ。だから、優しくされたいし、大切にされたい。  だって、俺は成宮先生の特別な存在だっていう実感が欲しいから。

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