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猫と風鈴と七夕と⑤

「重たい……暑い……」  腰周りに重たさを感じて目を覚ませば、何か体温の高いものに後ろからギュッと抱きしめられていた。  この匂い……。 「千歳さん」  そっと後ろを振り返れば、疲れきった顔をした成宮先生が寝息をたてて眠っている。  こんなに疲れているのに、わざわざ自分の所に帰ってきてくれるその優しさが、痛いくらい嬉しかった。 「おかえり」  そっと成宮先生の唇にキスをした。    チリンチリン……。  相変わらず風鈴が優しい音色を奏でながら揺れている。寂しい時にいつも自分を慰めてくれた音だった。 「あれ?」  見慣れない短冊を見つけた俺は、笹の枝に手を伸ばした。  良く良く見れば、本当にアホ丸出しの短冊達に改めて呆れてもしまう。 「これ、成宮先生の字だ」  チリンチリン……。  成宮先生の願い事が書かれた短冊が、風鈴と共に静かにエアコンの風に揺れている。  その短冊を見た俺は、鼻の奥がツンとなった。 「ふふっ。馬鹿過ぎるだろ?俺も貴方も」  込み上げてきた涙を、慌てて手の甲で拭った。 「俺、やっぱり千歳さんが大好きだ」  成宮先生が起きたら、いつもみたいに恥ずかしがらないで、ちゃんと伝えようと思う。  自分がどれ位、成宮先生のことが好きかって。  成宮先生の短冊には、なんて書いてあったかって?   『今の俺に願い事なんてありません。もう十分幸せです』  吾輩は猫である。  いつも、ご主人様が買ってきてくれた風鈴の音色を聞いて過ごしている。  吾輩は猫である。そして、織姫でもある。  世界で一番幸せな七夕を迎えた、幸せな幸せな猫である。 【猫と風鈴と七夕と END】

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