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意地悪なのに、優しい人④
「ここが見ればわかると思うけど、ナースステーションです。ここのナースは、皆さん優秀な方達ばかりなんですよ。ね?師長」
「もう先生ったら、口が上手いんだからぁ!」
「えー?事実じゃないですか?いつも助かってますよ」
「本当ですかぁ?」
師長と呼ばれた50代くらいの女性が、満面の笑みで先生と話をしている。まるでお花畑にいる少女のようだ。
いつの間にか、先生の回りは看護師さんだらけになっている。
その輪の中心で天使のように微笑む成宮先生……相変わらずの二重人格ぶりに、俺は呆気にとられてしまった。
「では水瀬君。次に行きましょうか?」
「先生、また遊びに来てね」
「はい、喜んで」
成宮先生は、最後に極上の笑顔と爽やかな風を残して、ナースステーションを後にした。
廊下の角を曲がった瞬間、成宮先生が突然立ち止まる。
「今の人がこの小児科病棟の師長であり、御局の花岡 さん。困った時はあの人に頼りな?力になってくれるから」
「はい。わかりました」
「ただ、看護師の世界は大奥だから、周りの看護師の人間関係を良く観察して上手く立ち回れよ」
「え?」
「看護師を敵に回すと怖いぜ?」
成宮先生が不敵に笑う。
その笑顔に、俺は身が引き締まる思いがした。
「まぁ、こんなもんかな?ope室とか、薬局、検査室あたりはわかってるだろ?」
「はい。大丈夫そうです」
「じゃあとりあえずは、俺について歩いて、研修医じゃなくて医師としての仕事を覚えて欲しい」
「はい」
「見ての通り、小児科医は明らかな人手不足だ……できるだけ早く、戦力になってほしい」
「はい!頑張ります!」
元気良く返事をした俺を見た成宮先生が、目を丸く見開いた後ケラケラと笑い出す。
「お前、本当に元気だよな?」
「あ、はい。すみません……」
「ううん、全然いいよ。子供みたいで可愛いし」
「え?」
成宮先生がフワリと微笑んだ瞬間、俺の心臓がトクンと甘く高鳴る。
「え?トクン?」
鈍感な俺は、その甘い不整脈の原因が全くわからなかった。
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